5月7日に行われた韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領との会談の中で、岸田首相は徴用工問題に関して個人的な見解として「心が痛む思いだ」と述べた。日韓関係の改善は進めつつも、安倍派に多い岩盤保守層に配慮して韓国側が求める「明確な謝罪」は避けたかたちだ。これで解決に向かうなら「融通無碍」も役に立つことになるが、日韓交渉についての伊藤氏の評価は辛口だ。
「岸田首相はこれまで日韓関係について熱心だったわけではない。今回の動きもほとんど韓国側の事情によるもので、日本が積極的に動いて解決に導いたわけではなく、日本は韓国側の動きに対応しただけ。理念、信念を持って日韓関係の改善に動いたとは思えない」
では、安倍氏亡き後の安倍派はいまどうなっているのか。安倍派幹部は「新代表が決まらないまま萩生田氏、西村康稔経産相、世耕弘成党参院幹事長らの集団指導体制が続き、実質的には森喜朗元首相が出張ってきて束ねている状態。森氏にとってはもはや『生きがい』という感じですね」と苦笑する。カギを握るのは、岸田首相の動向だ。
「安倍元首相の一周忌である7月8日までに後継会長が決まらない可能性もある。ただ、岸田首相が次の人事で萩生田氏を幹事長にすることをのめば萩生田氏を会長に、世耕氏を実質ナンバー2の共同代表といったかたちにして、文字どおりど真ん中で岸田首相を支持する」(安倍派ベテラン議員)
自民党内で駆け引きが続く中、いま、永田町では岸田首相が本気で早期の解散に踏み切るかが関心の的になっている。
■態勢が整わない維新の候補擁立
岸田首相は5月4日、訪問先のモザンビークで記者会見した際に早期解散の可能性について問われ、「重要な政策課題の結果を出すことに全力を尽くしているところであり、今は解散・総選挙は考えていない。その答えに尽きる」と述べた。だが、永田町でこの発言をそのまま受け取る向きは少ない。5月19~21日に広島で開催する主要7カ国首脳会議(G7サミット)を成功させれば、首相は通常国会会期末となる6月21日までに解散するとの観測がくすぶり続けているからだ。