福寿草、水仙、クロッカス……雪解けとともに花開き、大地の息吹を伝えてくれる早春の花たち。
そのなかでも、残雪の間から顔を出すスノードロップは、雪の雫を思わせる清らかなたたずまいで、いにしえより愛される花です。
雪が深い国や地域でひと足早く春の訪れを告げる純白の花は、まさに生まれ立ての生命や希望の象徴。
言い伝えや童話で語られてきたスノードロップにまつわるストーリー、そして意外なほど手軽な栽培方法までを綴りましょう。

晴れた日はふんわり開く花弁を下からそっとのぞいて見ると、小さなグリーンのハートが…
晴れた日はふんわり開く花弁を下からそっとのぞいて見ると、小さなグリーンのハートが…

和名は“待雪草~マツユキソウ~”。伝説や童話に登場し愛されてきた清楚な花

まだ春は遠い晩冬に、ちょっぴり恥ずかしそうにうなだれて咲く、小さな白い花を見かけたことはありませんか。クロッカスやスズランにも似た佇まいのこの花の名は、“スノードロップ”。ヨーロッパからコーカサス山脈が原産とされる球根植物で、和名は“マツユキソウ(待雪草)”と言います。
日本には、明治のはじめに入ってきたというスノードロップ。ヨーロッパでは古くから春を告げる花として親しまれ、たくさんの伝説や童話が残されています。
旧約聖書に出てくるアダムとイブが楽園を追われたときのことです。それまで暖かく豊かだった地上は、あっと言う間に一面の吹雪になりました。降りしきる雪の冷たさになげき、凍えるふたりの前に天使が舞い降り、雪に触れたところ、その雪が雫となり、そこから春の兆しのスノードロップが花開きました。またドイツでは、スノードロップに色を分け与えてもらった雪が、感謝を込めて、春一番に咲く栄誉を与えたという言い伝えも残っているそうです。
そして、ロシアの詩人・劇作家マルシャーク作「森は生きている(原題「十二月」)」では、冬が長い国の春・4月を象徴する花として登場します。絵本や舞台劇、アニメ映画でご覧になった方も多いと思いますが、ものがたりの主人公は、欲張りな継母の言いつけで大みそかの日にスノードロップを探し、森へ行く少女。そこで出会った12月の月の精霊たちに助けられるのですが、自然に逆らわず、自然に寄り添って生きていくことこそが、人間本来の幸福だと教えてくれるようなおはなしです。4月の精霊が杖をつくと雪深い森に1時間だけ春が訪れ、次々とスノードロップが花開くシーンは、本で読んでも、映像で見ても、夢のように美しい情景です。

聖母の花とも言われる“スノードロップ”。その花言葉は「希望」

また、キリスト教で“聖母の花”と呼ばれるスノードロップは、2月2日の聖燭節(キャンドルマス)とのかかわりも深い花。イギリスでは、“聖母の小ロウソク”と呼ばれているということです。
まだ雪が残る寒空の下で、耐えながらもけなげに咲くスノードロップは、やがて地上に緑がよみがえり、暖かい春が来ることを示す花。慎ましやかな純白の姿は、どんな逆境の中でもかいまみえる一筋の光を思わせ、「希望」という花言葉がつけられてるのも納得です。けれども一方では、死装束や死を連想させると言われる地方もあるので、贈りものにはむかないかもしれません。

花の時期は1月~3月。球根から植えても、ポット苗を入手しても、栽培は比較的簡単

さて、栽培方法はどうでしょう。球根植物の中でも手がかからない部類に入るというスノードロップ。たとえ庭がなくても、ベランダの鉢植えで十分楽しめるのもうれしいポイントです。
「球根」から植える場合は秋に植えておいて、芽が出るまでは少し涼しい場所に置き、芽が出たら早春に花が咲くまでは、できるだけ日に当てるだけでいいとのこと。水やりは、土の表面がかわいてからたっぷり与えればだいじょうぶ。肥料もさほど必要ありませんが、翌年も花を咲かせたいと願うなら、週に1回ほど肥料を与えたほうがいいそうです。
もっと手軽なのが、冬の時期にフラワーショップで売られている「ポット苗」を入手する方法です。お花やさんの店頭では、ちょっと小さくて目立たないかもしれませんが、気軽に店員さんにたずねてみてください。通信販売などでの取り寄せも可能です。
1株に1輪、ぽっと明かりを灯すように咲くスノードロップは、開いた後の花持ちもよく、どんよりと寒い灰色の日々をほんのりと照らし、長く一緒に過ごしてくれます。 暖かく、光があふれる春はもうすぐ。晴れた日はほほえむように花弁を開く小さな白い花が、春を待ちわびる気持ちにそっと寄り添ってくれます。