街に根付いた、それぞれに特色豊かな喫茶店。一杯の珈琲を飲むにも、チェーン店とはまた異なった魅力があるものです。



 高校時代から現在にいたるまで、1000軒を超える喫茶店やカフェを訪れてきた喫茶店通・カフェマニアの川口葉子さん。本書『京都・大阪・神戸の喫茶店』では、川口さんが京阪神地区にてオススメする数々の喫茶店が紹介されていきます。



 京都の街を歩いていると、思わず入ってみたくなる喫茶店に多々出合うことは間違いありませんが、ここで川口さんオススメの喫茶店を少しみてみましょう。



 京都・四条河原町、高瀬川沿いの路地を少し入ったところにある、フランソア喫茶室。川口さんによると、豪華客船を模して造られたその建物は、1934 年に完成し、国の有形文化財ともなっているそうです。



 クラシック音楽の流れる落ち着いた雰囲気の店内は、白いドームの天井やステンドグラス、深いワイン色のビロードの椅子が暖色系の明かりに映えます。文化の香り漂う格調高い空間のなかで出される飲み物やケーキ、クッキー、サンドウィッチ等は、どれをとっても本物の味であり、老舗の風格帯びた喫茶店です。



 またフランソアの近辺には、店内が青色に照らし出され、まるで東郷青児の絵画のなかに入ったかのような幻想的な雰囲気のソワレ、フランソアの完成と同じ年、1934年創業の老舗・築地もあり、京都の喫茶店の豊かさをこの一角からだけでもうかがい知ることができます。



 さらに、このフランソアを後にして四条大橋を渡り、八坂神社に向かう四条通沿いでは、ぎおん石、祇園喫茶カトレヤといった趣ある喫茶店が紹介されています。



 大阪にも個性的な喫茶店は存在します。本書で紹介されるうちのひとつ、千日前にある純喫茶アメリカン。大阪人に愛されているアメリカンは、ナポリタンやオムライス、こだわりのケーキの数々やホットケーキといった喫茶店の王道メニューも充実。そのホットケーキは料理家である小林カツ代さんも賞賛していたそうです。



 そしてアメリカンに入れば、独自の趣向を凝らした内装にも驚くはずです。

「吹き抜けの豪奢なシャンデリア。二階には白蝶貝を使ったパーティション。優美な曲線を描く螺旋階段。壁を飾る巨大なレリーフは彫刻家、村上泰造の作品」(本書より)と川口さんの表現するデザインは、一見の価値ありです。



 それぞれの街で愛され、人々と共に息づく喫茶店。本書を参考にしながら、実際に名喫茶の数々へと足を運んでみてはいかがでしょうか。