家庭や学校で「マイ電力」ができる『親子でつくる自然エネルギー工作(1) 風力発電』が大月書店から出版された。紙コップやうちわ、ポリバケツなどで風を受けて電気が生まれる。身近な材料でつくれる工作をカラー写真で完全図解したもので「風力発電のしくみ」や「風車のいろいろ」も学べる。
工作1:風力と風向きがわかる! かんたん風速計、工作2:プロペラ型風車・うちわ発電機、工作3:紙コップでふーふー発電機、工作4:ジャイロミル型風車・つばさ発電機、工作5:サボニウス型風車・卓上発電機、工作6:サボニウス型風車・ポリバケツ発電機の六つの工作を難易度別に紹介し、エネブルくん、エネグリちゃん、コンセントン(豚)のキャラクターがワンポイント・アドバイスをする。
「自然エネルギーを身近なところで感じて、実際につくってみる。発電がいかに大変なことなのかを知り、電気の無駄遣いを減らしてもらえればと思っています」という編者・東京理科大学理学部第一部物理学科の川村康文教授に話を聞いた。
■最も重要な点は風速
この本では、100円ショップや文房具店、ホームセンターなどで手に入る材料と、身近にあるエネルギーを使って、電気や熱をつくる工作を紹介している。風、太陽、水などから生まれる自然エネルギーは、原子力発電や火力発電よりも地球に負担をかけることがない。だからこそ、川村教授はこの自然エネルギーを広めるための理科実験授業を続けてきたのだという。
風力発電は、自然に吹く風の力を利用して発電するもの。風車の羽根の回転が発電機に伝わり、電気が起こるという仕組みだ。自然の風を利用するため、環境にやさしいエネルギーとされている。風車には色々な種類があり、それぞれ特徴が異なるが、この本ではプロペラ型、ジャイロミル型、サボニウス型の3種類をつくる。
紹介している工作はいずれも小学校高学年以上向けだ。学校の理科の授業では時間の関係もあり、ここまでのことは行わない。しかし、教科横断・融合型として、技術・家庭科の授業と一体になって実施し、総合的に体験することができればと川村教授は考えている。小さな発電機であれば、誰にでもつくることができる。工夫を凝らして、日々の生活の中での電気の使い方を変えていくことも可能なのだ。
川村教授がこの本で最も重要な点としているのは風速である。例えば台風のときに、テレビやラジオ、新聞などの天気予報で風速○メートルと伝えられる。風速1メートルがどのようなものなのか。質量1キログラムの物体の重さ、1メートルの長さ、1アンペアの電流の強さなどと同様、風速1メートルの風も体感しておくことが理科実験なのだ。机上のことだけではなく、実際に知らなければ、バーチャルとしてわかったような気になるだけである。
■理科は万人のための文化
理科実験は、理科というものがわかることに加え、人間が自然と向き合うから大事なのだ。自然と向き合いながら、人間が生きていくための根本を問うことが理科実験だという。幼児や小学校低学年の児童には、知育としても砂場での砂遊びが大切だ。それは、手・指が砂の質感を感じ取るからである。粘土細工も同様だ。造形しているときに、粘土の質感を感じることが大事なのだ。バーチャルの世界では決してわからない、重要なことである。本来の理科実験は、人間が自然に働きかけて自然の真理を見いだすことが本質なのだという。また、理科(科学)は万人のための文化でもあるのだ。
風力発電は、世界的にますます広がっているといわれている。地上だけではなく、遮るものがない海上での開発も進み、今後も大きな可能性を秘めている。理科実験の自然エネルギー工作として、親子で風力発電を試みることはそういったことを身近に感じる第一歩だ。完成して発電を体験したときの感動と喜びも、一緒に分かち合えるに違いない。(朝日新聞デジタル &M編集部 加賀見 徹)
『sesame』2015年3月号(2015年2月6日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16726