舞台は21世紀の日本。主人公の名は伊藤博文。長州藩の籠球(バスケットボール)チーム「松下村倶楽部」のOBである。江戸に出てきた長州人の肩身は狭く、就職にも不利だった。なぜなら長州藩には幕府に逆らって暴走した過去があるから!
室積光『江戸オリンピック』はそんな伊藤たちが2020年の江戸五輪招致を画策する物語である。
ペリー来航に際し、平和的な開国に成功した徳川幕府は、その後も生き延び、発展した。が、21世紀の世界は白人国家が牛耳っており、有色人種の国で植民地化されていないのは日本などわずかだけ。「名誉白人」の地位を与えられた日本は戦争のたびに武器の輸出で経済発展をとげたが、それでよいのか。白人優先の世界を変えるべきではないのか。
〈俺は同志を募っている。長州だけではないぞ。外様藩として虐げられてきた地方や、日本だけじゃない、朝鮮、中国、東南アジア、いや世界中から人材を集めて行動を起こす〉
といいだしたのは広告代理店「江戸通」に勤める同じ長州出身の高杉晋作。伊豆野スポーツの宣伝部に勤める伊藤はビビるが、長州藩庁に就職していまは江戸詰の先輩・桂小五郎も乗り気。ネットで個人輸入を代行する会社「回援隊」を立ち上げた坂本竜馬、教育奉行所の西郷隆盛と大久保利通、江戸町奉行の勝海舟、はては西葛西に住むインド人弁護士のガンジーやネール、中国人の周恩来、朝鮮人の安重根まで加わって、有色人種の運動能力を見せつける五輪招致活動がはじまるのだ。
これぞまさしく流血のない革命。彼らは印籠電話でSNS「顔絵巻」に登録して友達の輪を広げ、視察のためにロンドン五輪に岩倉具視視察団を送りだすのである。
IOC総会でのプレゼンで楠本イネが発した言葉は〈スポーツで決着をつけましょう。これを日本では『お・と・し・ま・え』と呼びます。おとしまえ。おとしまえをつける〉。
伊藤博文と安重根が仲良く活動するラストはちょっと泣きそう。
※週刊朝日 2015年2月6日号