ネット上で外国人への差別的な書き込みを行う「ネット右翼(ネトウヨ)」、さらには「○○人出て行け」といった言葉を街頭で訴えるヘイトスピーチ・デモなど、ここ数年国内では排外的な言動や行動に注目が集まっている。本書は新進気鋭の論客たちが、こうした現況にどう向き合うべきかを論じ合った記録だ。
中核をなすのは漫画家や研究者など、日ごろは異なる業界で活動する者同士が一堂に会して行われた第一章のやりとりだ。ヘイトスピーチへの危機感は登壇者の誰もが共有している。問題はその先だ。対抗策に関する各人の立場は微妙に食い違っている。例えば宇野常寛(評論家)が従来の「リベラル」以外の層も含めた、ネット右翼への対抗集団の強化を語るのに対し、朴順梨(ライター)は集団が独立したまま、根本的な問題が解決せずに終わってしまう可能性への危機感を訴える。細かな対立はあちこちで見られるが、言い換えればそれらは、問題を考える視点を炙り出す作業ともなっている。立場の違いに行き詰まるのではなく、一歩先へ思考を進めるための道標を提供する実践的な一冊だ。
※週刊朝日 2015年2月6日号