ロックミュージシャンと市井の人々を撮り続けてきた写真家が、街で出会ったさまざまな人の優しい横顔と、自身の若き日々をふりかえったフォトエッセー。
生後わずか2カ月で腰椎カリエスを病み、絶望と孤独の中で育ったという著者は、いつも「人が人を好きになるような写真」を撮ってきた。バス停のベンチでハンバーガーをほおばる父子、私は誰にも媚びない、と目で宣言するセーラー服の少女。モノクロの画面の、ああ、ここにも自分がいる、そんな風景にふっと笑みがもれる。
10歳の女の子にも真剣に話をする著者の誠実な人柄に、誰もが驚くほど心を開く。ある女子高生は「なぜ生きるのか」と思い悩む日々を語り、震災の被災地でダメになった漁具を黙々と片づける漁師たちを、罵倒されるのを覚悟で撮影したときは、一人の若い漁師が「僕たちのかけがえのないものを形にしてもらった」という言葉を返す。
カメラは、笑顔の向こうにあるそれぞれの誇り、葛藤や孤独もとらえる。ただ懸命に生きている、そういう名もない人々の姿になぜだろう、涙がぽろぽろこぼれる。
※週刊朝日 2015年2月6日号