季節の変わり目というと、春分や秋分、立春・立夏・立秋・立冬などを思い浮かべることが多いと思います。
夏に体を労わる時候として知られる『土用』は、四季すべてにあり冬の土用は寒中に訪れ『冬土用』と呼ばれています。
さて、土用とはどのような歳時記なのでしょうか?

「雑節(ざっせつ)」という日本独自の歳時記

季節の移り変わりを表す歳時記ですが、二十四節気は中国から渡来したことはご存知の方が多いかと思います。二十四節気はさらに七十二候に細かく分けられています。ここまでの考え方は渡来した内容を踏襲しているのですが、やはり風土の違いがあるため、七十二候については何度か見直されています。そうした中で、農業に関連して生まれたのが『雑節』です。
雑節には、節分(せつぶん)・八十八夜(はちじゅうはちや)・入梅(にゅうばい)・半夏生(はんげしょう)・二百十日(にひゃくとおか)・彼岸(ひがん)・土用(どよう)があります。この中で、彼岸は春と秋の二回、土用は春夏秋冬にあります。どれも五穀豊穣のために必要なことを説いており、それを守ることで田畑を耕し、実らせ、自らの健康と生活を営んできたお守りのような節目です。
忌むべきこととして、四季のいずれも「土(つち)」にまつわることを避けるようにとされています。土用の時期は、土の氣が強いため、土に触れると体調を崩すと考えられたためです。農作業だけでなく、埋葬(当時は土葬)も延期するようにしていました。

土の氣が強い時期ならでは…というと

冬土用(今年は1月17日~)に入ってすぐに、二十四節気の『大寒』が訪れます。寒さも後半に入ったよ…という知らせであると同時に、厳寒の季節にしかできないことや見られない景色もあります。例えば、高野豆腐(凍て豆腐)、寒天、寒造りの日本酒などにとって、この季節はとても大切です。寒の水はとても澄み渡り、研ぎ澄まされ、この間の水には滋養があるとも言われています。
また、土の中では私たちが触れなくても多くの命が育まれていて、自然にその姿を見せ始めてくれます。
植物では、蕗の薹(ふきのとう)や福寿草(ふくじゅそう)など、雪の積もった土をグン!と押しのけるようにして現れるものが多く見られます。眠りから覚めて大きく腕を広げるようにして、姿を現すこれらはなぜか低い植物です。土の中の温かみから離れられない様子はまるで炬燵(こたつ)や布団からなかなか出られない私たちのようにも見えます。

人間も自然の一部だから…

土に触れられず、水仕事が多い冬土用は節分まで続きます。
植物がおそるおそる暖かい土のそばに自生するように、私たちもこの時期は自らを労わることが大切です。元来、土用に土に触れてはいけないと言われたのは、畑仕事をしないことを意味しています。寒さ極まる時期に、土のことは土に任せて、人は体を休めるという戒め(いましめ)も『冬土用』には含まれています。
「時節柄ご自愛ください」と、手紙に記しますが、まさに冬土用の時期にこそ『自愛』が大切です。
季節が少しずつ、移り替わるように私たちも少しずつ春へと力を蓄えて行きたいものですね。

《参考文献》
俳句歳時記・冬 角川学芸出版編