■アナログ化技術も向上

 前出の原田さんは、サブスクとの楽しみ方に根本的な違いがあるのではと指摘する。

「サブスクには、どこか“お試し聴き”のような感覚があるんです。便利ですが、それゆえに音楽と『向き合う』感覚がどうしても希薄になってしまう。そんななかで、気になる、気に入る曲やアーティストを見つけたときに、盤で欲しいな、どうせならいい音、アナログレコードで聴いてみようかなということはあると思います」

 原田さんは、近年のアナログ化作品の音のクオリティーの高さにも注目する。

「プレスやカッティングの技術も上がっていますし、『重量盤』といって、盤そのものの素材にもこだわって制作されるものが多いです。同じ内容でもまったく音質が違っていたりするので、そういう環境で出される初アナログ化作品というのは、ある意味幸せな作品なのかもしれません」

 冒頭のRCのアルバム。当時RCサクセション所属レーベルの宣伝担当だった高橋Rock Me Babyさんは、発売日に店舗で購入、すぐに針を落としてみた。

「制作中にメンバーが2人も脱退してしまったり、つらい時代の作品でした。このアルバムのエンジニアは、レニー・クラヴィッツのファーストアルバムを手がけたヘンリー・ハーシュで、きわめてアナログ的な音づくりをし、完成後に『1969年のロックができた』と喜んでいました。思い切りアナログな音をデジタルのCDに落とし込むという、挑戦的な作品でもありました。今回アナログで聴いてみて、あのとき実際に聴いた音だという感動、メンバーのこと、いろんな記憶が一気によみがえってきました」

 初アナログ化がおこしたロックの魔法のような気がした。

(ライター・太田サトル)

AERA 2023年7月3日号