『失礼な一言 (新潮新書)』石原 壮一郎 新潮社
『失礼な一言 (新潮新書)』石原 壮一郎 新潮社
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 皆さんは、友人や職場の上司、親戚などから失礼だと感じる言葉をかけられたことはないでしょうか? 相手に悪気はないであろうだけに、よけいにモヤモヤ、イライラ......。逆にいくら自分は気をつけていると思っていても、知らないうちに誰かに失礼な一言を投げかけている可能性だってありえます。

 「次々と迫りくる失礼の被害を最小限に抑えるには、どんなノウハウや心がけが必要なのか。そんなことを考えるために、失礼は承知で『失礼研究所』を個人的に設立しました」というのは、書籍『失礼な一言』の著者・石原壮一郎さん。同書では、これまで『大人養成講座』を始めとする大人シリーズで知られる石原さんが、自分と周囲が日々を平和に穏やかに過ごすための"失礼との付き合い方"について考察した一冊です。

 私たちの日常には本当にさまざまな"失礼"が存在するものです。年賀状における間違い、飲食店での店員や同行者に対する態度、ペットを飼っている人といない人との意識の違い、花粉症の人同士の「自分のほうがひどい」という謎マウンティング、敬語の間違い、LINEやメールの書き方・送り方などなど......。「言われてみればなるほど」「私も嫌な目に遭ったことある!」と思い当たる人もいるのではないでしょうか。しかし、これらはまだまだ序の口と言えるかもしれません。

 同書ではさらに、年齢や学歴、住んでいる場所、性別など「属性にまつわる失礼」、子育て結婚、仕事の仕方などに対する「ライフスタイルへの失礼」といったところにまで踏み込みます。いわゆる「ハーフ」と呼ばれる人や在日外国人などのマイノリティとされる人々を取り上げた項目では、ドイツ人の父と日本人の母を持つエッセイストのサンドラ・ヘフェリンさんなどにもインタビューを実施。これまでどのような言葉を失礼だと感じたかという当事者の声を収録しています。私たちは自身の感情にはセンシティブになりがちですが、自分とは異なる立場の人々には意識が向かないことも多いもの。彼らの本音を聞くことで、自分も知らないうちに誰かの"地雷"を踏んでいないか、ぜひとも確認したいところです。

 同書で失礼を研究することについて、「重箱の隅をつついて『失礼』を作り出そうとしているのではありません。失礼の基本は押さえつつも、自分と周囲が日々を平和に穏やかに過ごすために、失礼とどう付き合っていけばいいかを考えていく」(同書より)のが目的だと石原さんは言います。人とのコミュニケーションには見込み違いや勘違いは付き物ですから、多少の失礼はお互い様として笑って許し合いたいもの。ただし、悪意ある失礼や度を越した失礼は、人間関係に修復不可能なヒビを入れることも......。同書はそのレッドラインを知るための手引きとして参考になることでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]