ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「カミラ王妃」について。
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英国の新国王チャールズ3世の戴冠式が行われました。昨年崩御したエリザベス2世による統治を継ぎ、これで英国(イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド)の他に、カナダ・オーストラリア・ジャマイカなどを含む14カ国の君主・元首として即位した旨を内外に宣明した新国王。
中でも感慨深かったのが、これまではあくまで「国王の配偶者」という意味の「王妃」だったカミラ王妃が、此度の国王戴冠に伴い、晴れて正式に「カミラ王后」となったことです。
ここで故ダイアナ妃の存在を引き合いに出すのは野暮の極みですが、正直「カミラ王后陛下」の誕生を目の当たりにする日がやって来るなんて、26年前には想像すらできませんでした。「ブレずに生きる」ということは、時に厳粛で保守的な慣習や伝統すらも変えてしまう力があるのだと痛感した次第です。
エリザベス2世による長い統治の中で、英国王室は様々な変革を遂げてきました。70年前の戴冠式で、歴史上初となるテレビ中継が行われたのを皮切りに、女王・国王のクリスマススピーチの放送が毎年の恒例となり、最近ではYouTubeやSNSといったネットメディアを使った発信も盛んです。
エリザベス2世の夫であった故エジンバラ公や、息子であるチャールズ3世、さらには孫のウィリアム皇太子らが、時代に即した王室像を打ち出せたのは、連綿と続いてきた君主制・王制の「務め」に最後まで粛々と向き合ったエリザベス2世の揺るぎない存在感があったからこそだと言えるでしょう。
今の英国王室に一抹の不安を覚えるとしたら、それは「今後、保守と近代化のバランスを誰がどのように取るのか?」です。もちろん一般社会から見れば、どこの国の王室も超保守的伝統の上に成り立っているのは明らかですが、世間や時代の温度感に寄り添い過ぎるのは、王室の王室たる威厳や偶像を破壊しかねないことでもあります。