『ディス・サマー』アレッシア・カーラ(EP Review)
『ディス・サマー』アレッシア・カーラ(EP Review)

 2018年11月に発表した2ndアルバム『ペインズ・オブ・グローイング』は、大ヒット曲こそ輩出されなかったものの、カントリーやフォーク、ワールド・ミュージックなどを取り込んだ、すばらしい意欲作だった。「Here」や「Scars to Your Beautiful」などの大ヒットを生んだデビュー・アルバム『ノウ・イット・オール』(2015年) のプレッシャーもあったと思うが、R&B色を強めて売れ線に走ることなく、独自の音楽性を追い求めるスタイルには感服する。

 2017年は、映画『モアナと伝説の海』のエンド・ソング「How Far I'll Go」や、ロジック&カリードとコラボした「1-800-273-8255」、ゼッドとのタッグ・ソング「Stay」などヒットを連発し、翌2018年は【第60回グラミー賞】でカナダ人初の<最優秀新人賞>を受賞。近年の活躍をみれば、彼女の人気と評価の高さを、今さら如何なものかとアレコレ言う必要もないだろうが、前述にもあるように「ヒット」から遠ざかっていることは確か。いや、あえて遠ざけているのか……?

 本作『ディス・サマー』からの1stシングル「Ready」は、アレッシアの掠れた声質を活かしたレゲエ風のミディアム。決して売れ線ではないが、これまでの概念を打ち砕く、新境地を開拓した“ニュー・アレッシア”が垣間見える。プロデュースは、ドレイクからデュア・リパ、セレーナ・ゴメスまでジャンルをクロスオーバーして手掛ける、ジョン・リーバインが担当した。同曲は、オープニング・アクトとして参加した、 ショーン・メンデスの最新ツアーでリリース翌日に初披露され、話題を呼んだ。

 2ndシングルの「Rooting for You」は、アコースティック・ギターの弾き語りで始まるチルアウト・ソング。リズムの刻み方やエアホーンの効果音など、この曲もどこかレゲエ~ワールド・ミュージックの要素を含む。同曲も、 ジョン・リーバインとの共作。墜ちた友人に向けての応援歌だと思われるが、皮肉っぽいニュアンスもあり、アレッシア独特の表現法が用いられている。

 続けて発表した3rdシングル「Okay Okay」も、レゲエとシンセポップを融合したような夏らしいナンバー。本作は、タイトル『This Summer』にもあるように、“夏”に似合うトラックで構成されている。ソングライターには、 「Ready」にもクレジットされた音楽プロデューサーのミディ・ジョーンズというアーティストがクレジットされている。ユルいサウンドに乗せて諸問題を重んじることはないと肩をたたく、アレッシアの「オッケ~ オッケ~」には癒された。

 個人的には、前シングル3曲よりもファンキー且つメロディックな「What's On Your Mind?」を推したい。この曲には、現在大ヒットを記録しているリゾのデビュー・アルバム『コズ・アイ・ラブ・ユー』収録の「Exactly How I Feel」を手掛けた若手ソングライター、マイク・サバスというアーティストが参加しいる。さらに色を強めたルーツロック・レゲエ調の次曲「Like You」もいい曲。

 オープニングから5曲目の「Rooting for You」まではサウンド・テーマ共に統一感があるが、ラストの「October」は先立って秋を迎えるオセンチ系メロウで、テーマとはズレが生じているものの、いいアクセントにはなっている。恋の終わりを予見したのか、はたまた未練を綴っているのか、曖昧な表現で誰かへの想いを綴ったラブ・ソングだが、ツアーで同行したショーン・メンデスにあてたものだとの説もある。両者は、今年初夏頃に“そんな雰囲気”をニオわせていたが、夏本番を迎えカミラ・カベロとの熱愛が発覚し、その関係性も曖昧に。果たして真相は……?

 夏が終わろうとするタイミングでリリースされた本作 『ディス・サマー』だが、残暑厳しいシーズンの清涼剤としても最適で、まだまだ“終わらない”夏を楽しませてくれる。

Text: 本家 一成