日本古来と信じ込んでいた風習が意外にも歴史が浅いことは少なくない。恋愛や家族制度も例外でない。平安時代から現代まで先行研究を繙けば、日本では西洋と異なり、多妻制度や離婚も厭わずに自由に結びつく形態が、長い目で見れば標準的であることがわかる。
本書が興味深いのはこうした形態を可能にした要素として、女性の経済力を指摘している点だ。平安時代は、経済的基盤を築くため女性の実家の財産目当てに多くの妻を持った男も珍しくなかったという。また、一部の上流階級を除けば、女性は機織りなどの労働に裏打ちされた経済力を持っていたことで男女が対等な関係を結ぶ時代が続いた。
明治になり、西洋の倫理観を取り入れたことが家族制度の転換点となった。同時に工業化により、女性が担っていた職が消失して男女の経済格差が生じ、現代につながる家父長的な家族形態を強固なものにしたことは見逃せない。
現代は非婚化が進む。その原因の一つが、女性の社会進出による経済力の拡大にあるのは歴史を眺めれば皮肉だ。
※週刊朝日 2014年10月31日号