先週紹介した太川陽介『ルイルイ仕切り術』は、どうやって人間関係を円滑に進めるかを語った本だった。一方、こちら、蛭子能収『ひとりぼっちを笑うな』のコンセプトはまるで逆。なにせ帯のコピーが「人づきあいって必要ですか?」だ。
 とにかく束縛されたり自由を奪われたりするのが大嫌い。どんな群れにもグループにも属したくない。食事会や飲み会も苦手。テレビの地方ロケ後の食事でも、みなで大皿料理はつつきたくない。〈誰とわけるでもなく誰になにを言われるでもなく、あくまでも自分の好きなペースで食べる。もちろん、できれば誰もいない場所でひとりぼっちになって食べたい〉という徹底ぶり。
 では、あくまでワガママ放題を貫くのかというと、〈僕の場合、子どものころから“目立ちたい”という発想が、ほぼ皆無でした〉。〈他人より一歩先に出たいとか、誰かを押しのけて自分が前に出たいとかいう欲望が、そもそも希薄な人間なのでしょうね〉。贅沢品には興味がない。洋服にも興味がない。〈ちなみに、いま着ているシャツは、番組のロケ中にとおりすがりの商店街で、「あ、これ目立たないしちょうどいいや」と思って買ったものです。確か1000円ぐらいだったかな?〉。
 小心といえば小心、大胆といえば大胆。蛭子能収、薹の立った中学生みたいな人格である。それでも30年、漫画と芸能界の二足のわらじでなんとなくやって来れたのは、限りなく無根拠に近い自己肯定感のゆえであろう。〈生まれてこのかた、誰かに「嫌われている」って思ったことがないんです〉。なぜならば〈“僕は誰かに嫌われるようなことをなにひとつしていない”からです〉。
 嫌われてはいなくても始終イラつかせているかも……などとは考えないのが楽しく生きる秘訣。〈僕は、むしろみんなと同じになりたいんですよ。“オンリーワン”ではなく、むしろ“ワンオブゼム”になりたい〉。芸能界においては希少種だろう。むろん、だからこそ目立つのだ。
週刊朝日 2014年10月10日号

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