クリーンルーム内で、レタスの生育状況をチェックするスタッフ(写真:富士通提供)
クリーンルーム内で、レタスの生育状況をチェックするスタッフ(写真:富士通提供)
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徹底した品質管理の下で栽培されたレタス(写真:富士通提供)
徹底した品質管理の下で栽培されたレタス(写真:富士通提供)
タブレット端末を使って栽培状況を調べられる(写真:富士通提供)
タブレット端末を使って栽培状況を調べられる(写真:富士通提供)

 腎臓病患者の人は、生野菜をあまり食べられないことをご存知だろうか?

 原因は生野菜に多く含まれるカリウム。腎臓を患うとカリウムの排泄が滞って体内に蓄積され、血液中のカリウム濃度が上昇して不整脈に陥ることがあるのだ。

 そんな腎臓病患者の方でも安心して食べられる低カリウムレタスの販売を、富士通グループが5月7日に開始した。

 この低カリウムレタスは、福島県会津若松市の半導体工場のクリーンルーム内で栽培されたもので、徹底した品質管理により、カリウム成分を従来のレタスの約5分の1まで減らすことに成功。洗わずに食べられ、長持ちするという特徴もあり、事前のテスト販売では好評だったという。今後は、他の低カリウム野菜の栽培にも取り組む予定だ。

 富士通グループでは、09年の事業統合で同市の半導体工場が休止してから、活用方法を検討、付加価値の高い野菜を栽培する植物工場として利用することを決めた。そこで、そもそも農業は完全に異業種だったにもかかわらず、すでに低カリウムレタスの栽培を成功させていた地元企業の「会津富士加工」から栽培指導を受けることにした。こうした地元企業などの協力を得て、13年7月から、半導体工場のクリーンルームで、農業の生産から販売までを管理・支援するクラウドサービス「Akisai(アキサイ)」を活用した低カリウムレタス栽培の実証実験を開始。14年1月に、植物工場として本格的に操業を始めた。試行錯誤を重ねて生産量を増やし、現在では当初の約2倍、1日当たり3500株を収穫できるまでになった。

 種付けから包装までの全ての工程を、温度や湿度、CO2濃度、照明などを細かく調節して雑菌管理ができるクリーンルームで実施。栽培状況を随時チェックし、データを継続的に解析できるAkisaiを組み合わせ、低カリウム野菜の安定供給が可能な育成環境を実現させた。

 まずは、会津若松市内の病院や旅館、東京都八王子市のスーパーなどで販売したのち、順次、全国の法人を中心に展開していく予定。価格は、場所によって多少の差はあるものの、一般的に90グラム(2株)500円前後となると予想される。

 同グループでは「低カリウム以外にも様々な機能性野菜を開発し、場所や環境を選ばない野菜づくりを広げていくことで、ひとりでも多くの方にICT(情報通信技術)の力で食のよろこびをお届けできるのではないか」としている。

 従事者の高齢化、農作物の輸入問題、食糧自給率の問題など、日本の農政、農業がかかえる課題はたくさんがあるが、ICTを活用し、安全に、効率的に栽培ができるこのような試みは、今後の食糧供給を考える上で、重要な手がかりになるのかもしれない。