トルコを取材したのは2013年のこと。日本語詞のオリジナル曲を歌う女の子たちのビデオが届いたことがきっかけだった。この映像を送ってきたトパロール・スメイイエさんは、当時、国立アンカラ大学の学生だった。地下鉄の駅からほど近い、郊外の団地にあるご自宅を訪問すると、公務員であるお父さまと、ヒジャブをまとうお母さまが迎えてくれた。厳格な伝統を大事にするご家庭であることはすぐにわかった。一人娘の彼女は、ご両親のことを慮りながら、いつか、日本へと飛び立つという夢を見ていた。

アンカラ大の日本語日本文学科は、人気の専攻だ。毎年、「文化祭」と呼ばれる独自のイベントも開催され、一年生は和装をすることが決まりになっている。模擬店が並び、折り紙やコスプレを訪問者と共に楽しむ姿を見ていると、そこがトルコであることを忘れてしまう。

トルコには、日本愛好者のグループもある。第三の都市・イズミルでは、「日本イズミル文化友好協会」が2010年から活動を行っており、昨年、外務大臣表彰をされた。この街では、中学生が日本の歌を合唱する公演も、大劇場で毎年開催されている。

さて、私は首都に暮らす「スメちゃん」に連れられ、友達と一緒に結成したバンドの演奏を聴いた。お世辞にも上手とは言えないが、深い愛を感じた。歌は「上手いか下手か」だけではなく、心に届き、宿り、響くかどうかが大切だ。何故なら、音楽は人生に寄り添うものだからだ。

彼女たちがカバーしていたのがSCANDALだ。SCANDALは、2006年に、スターを夢見る10代の女の子によって大阪で結成され、当初は、可愛らしい女の子が制服で演奏するということで注目された。やがて、不断の努力と、音楽への愛情が才能を開花させる。自分たちで曲も書き上げるようになり、単なるアンサンブルから、グルーヴを持つバンドへと変貌していった。J-MELOには世界中から多数のリクエストが届き、東アジアだけでなく、欧州、北中米などでソールド・アウト公演を成功させた。

2014年には、番組のエンディング曲として、「Your song」を共に制作した。「あなたの大事にしている言葉やフレーズは?」という問いかけをしたところ、瞬く間に世界中から返答が殺到した。彼女たちは、その中の一つの、「何をやりたいのか、自分では分からない」という悩みを打ち明けたフィリピンの視聴者の言葉にインスパイアされ、「誰かの為じゃなく 君は君の為に 信じて進めばいい」というメッセージを、サビの歌詞に載せた。今では、ライブで最も盛り上がる曲の一つになっている。この曲は、ツアー中に、ホテルの部屋に夜な夜な集まり、議論を繰り返して書き上げられたと、後日、聞いた。彼女たちにとっても、転機となる作品だったのかもしれない。

この翌年、アジア太平洋放送連合(ABU)の総会をトルコで開催することになり、そのアトラクションにSCANDALを招くことになったと、同僚が私に連絡してきた。選定には、私の取材やデータを参照したという。私は、もし現地の視聴者を招くことができるならと、スメちゃんらを紹介した。

SCANDALは、トルコ側の来賓や、アジア中の放送関係者の前で、日本代表としてライブ・パフォーマンスを披露した。暫くすると、1枚の写真が送られてきた。終演後に、スメちゃんとその友人が、SCANDALと共に撮影したスナップショットだ。そう、ついに実際に会うことができたのだ。全員、幸せそうな表情だった。音楽が紡いだ絆が、トルコと日本の若い女性を繋いだ瞬間が、そこに写し出されていた。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。