<昔の人々は恋愛をして結婚をしてセックスをして子供を産んでいたという。けれど時代の変化に伴って、子供は人工授精をして産むものになり、セックスは愛情表現と快楽だけのための行為になった>
 村田沙耶香『殺人出産』はそんな「100年後の世界」を舞台にした衝撃的な中編小説だ。衝撃的なのはしかし、セックスと出産が分離されていることではない。この世界では<10人産んだら一人殺してもいい>という「殺人出産システム」が導入されているのである!
「産み人」に立候補した人(人工子宮が開発されているため男性でも可)は10人の子どもを産む。そのかわり10人産み終えたら、誰か1人、殺したい人を合法的に殺す権利が与えられる。殺人の対象に選ばれた「死に人」は、皆のために犠牲になった人として尊敬される。
 殺人出産制度の導入後、人々は<恋愛とセックスの先に妊娠がなくなった世界で、私たちには何か強烈な「命へのきっかけ」が必要で、「殺意」こそが、その衝動になりうるのだ>という残酷な理屈を当然のこととして受け入れている。
 語り手の「私」には、17歳で「産み人」になり、もうじき10人目を出産する姉がいるが、そのことを周囲に隠している。姉は幼い頃から強烈な「殺人衝動」の持ち主で、<“殺人”を夢想することが唯一、姉の精神を守るライナスの毛布なのだった>。自傷行為をやめさせたくて「私」が虫を渡すと、<姉はゆっくりと指で押しつぶして、それらを殺した。殺すと発作は収まった>。
 最近報道された高校1年生の事件を彷彿させるような描写!
 ただ、いかんせんこれほど重いテーマを、わずか100ページあまりでやっつけるのは無理がある。ここまでだとやっと1人産んだ程度の内容だ。物語の最後で「私」自身も「産み人」になることを決意している。ここから先は長編小説にするべきだろう。世間を震撼させる問題作になることまちがいなしだ。

週刊朝日 2014年8月8日号