地球の旅人 東苑泰子の東遊西撮記 ユーラシア横断編がスタート!
dot.のフォトギャラリーとコラム「地球の旅人 東苑泰子の東遊西撮記」でおなじみ、東苑泰子さんが6月末、ユーラシア大陸横断の旅に出発しました。
東京を基点に、韓国、中国とシルクロードの国々を通って地中海に抜け、大陸の最西端にあたるポルトガルのロカ岬まで、約半年間の行程です。
dot.では今月から月1回のペースで、この旅の様子を伝えていきます。
旅のルールは、移動は可能な限り公共交通機関を使う、飛行機には乗らない、旅の途中で帰国をしない、の三つ。
行く先々で、抜群のフットワークとコミュニケーション力を生かして、その国の歴史と風土と人々の暮らしを活写します。
カラフルな民俗衣装が楽しい伝統的な祭りの紹介も東苑ワールドの大きな魅力。
みなさんも東苑さんと一緒に、地球最大の大陸のスケールを体感しましょう!
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6月20日に東京を出発し、名古屋、京都、奈良、大阪に立ち寄って、新幹線で博多まで来た。26日、高速フェリーで韓国の釜山に渡った。29日にKTXでソウルに移動し、30日の夜、仁川港からフェリーに乗った。そして7月1日の朝、中国山東半島の威海に上陸した。ユーラシア大陸横断の旅が始まった。
ああ、ユーラシア大陸を東から西の果てまで旅してみたい! そう思ったのは高校生の頃だった。地理や歴史が大好きで、世界の色々な土地を訪れてみたい、世界史の舞台をこの目で見たいと思った。万里の長城、兵馬俑、モンゴルの草原、莫高窟、タクラマカン砂漠、ヒマラヤ、タージマハル、モヘンジョダロ、バーミヤン、サマルカンド、イスファハーン、チグリスとユーフラテス、パルミラ、エルサレム、イスタンブール、パルテノン…… エキゾチックな名前にわくわくした。そしてそれらの遺跡に立って、素晴らしい文明を築いた先人の知恵を学びながら、しかしなぜそれが滅びたのか、そしてなぜ自分たちはここにいるのかを、自分の頭で考えたいと思った。もちろん、遠くの知らない土地を逍遥(しょうよう)し、日本ではできない経験をしながら面白い人々と出会いたいという冒険心もあった。世界中を知りたいという好奇心、そして放浪したいという若い旅の心がどこまでも膨らむ年頃だったのだろう。しかしその当時、海外への渡航はほとんど留学か赴任に限られており、海外旅行は一生に一度の一大イベントで、長期間外国を回るなど、金銭的にも世界情勢的にも世間的にも夢のまた夢だった。高度経済成長期とはいえ、日本の国際的な地位は確立されておらず、円は強くなかった。時代は東西冷戦まっただ中、欧米以外への自由渡航は不可能だった。そして、先進国に比べて今よりずっと遅れていた開発途上国に、外国人用の清潔で手軽な宿はなかった。もちろんインターネットもなく、海外について十分な情報を得る術はない。個人が自由に旅行できる世界ではなかったのだ。何よりも女性の一人旅は国内ですら難しい時代、古風な親が娘の私を旅に、しかもひとり旅になど出すはずもなかった。八方塞がりだった学生時代、地図を眺めて本を読んでは、世界の遺跡や大自然のイメージに浸り、出られない焦燥感と旅の心を癒しながら、しかし世界と旅を求める心の灯は決して消すまいと思っていた。
あれから、国際情勢と社会は激変した。とにかく今ではほとんど世界中を、女性ひとりでも自由に旅することができるようになった。
ついに長年の夢が叶う時がやってきた! しかし同時に時代は進化した。以前のように海外は、限られた人たちが外交交渉し、必要なものを取引し、一般の人々は観光に行くだけという場所ではなく、人々がそれぞれの立場で日頃から交流し、お互いを考えなければ立ち行かない世界となっている。若い人たちは、時には国の単位を超えて世界の人々と共に将来を考える地球人となりつつある。そういう今の時代、対岸の火事と思っていた外国の出来事も、自分たちが関わる問題として受け止めなければならなくなってきている。すると私の旅も、遺跡や史跡を廻って考察し、風景や暮らしを眺めて異国情緒に浸るだけでなく、一歩踏み込んで今を生きる人たちと出会い、彼らの気持ちにも触れていかなければならない。
本日、ついに中国の山東半島に上陸した。ここからおよそ半年間、シルクロードを軸に、中国、パキスタン北部、キルギス、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、トルコ…… そしてポルトガルまで旅をする。大きな大陸をローカルバスや電車を乗り継いで横断するには短い期間ではあるが、今までの旅の経験を活かして人々と交流し、東京に生活する主婦の耳で人々が日々の暮らしの中で何を思っているのかを聞き、日本の高度成長期に育った頭で世界が近代から現代へとどう歩んできたかを考えながら、ユーラシアを東から西へ、過去から現在へと広く旅したい。つまり観光ではなく「観考」してみたい。
では皆さん、まずは中国山東半島から山東省、山西省、シルクロードの起点と言われる西安を目指してスタートしましょう! (2014年7月1日)