今から10年前、長崎県佐世保市で小6の女児が同級生を殺害する事件が起こった。11歳による殺人であり、かつ被害者の父親が毎日新聞社の支局長であったことから、事件は当時メディアを大いに賑わせた。
本書は当時、被害者の父の部下であった新聞記者が、取材当時から事件関係者の現在までをまとめたルポルタージュだ。注目すべきは、書き手が「取材者」かつ「被害者の隣人」という立場の二重性にある。前者の目線からは、被害者やその同級生たちの様子をはじめ、事件当時の状況が克明に描きだされる。他方、事件を記事にすることは、家族同様に親しくしていた遺族らを「傷つけるのではないか」という葛藤にも直結する。二つの立場に引き裂かれる書き手の姿は、報道に関わる者のありかたについて読者に考えさせずにおかない。
本書後半では被害者の父、兄、加害者の父という三者の目線から事件が回想される。事件は終わっても「遺族にとってはずっと現在進行形」と語る被害者の父の言葉は重い。近しい立場から10年越しで引き出された言葉の厚みが詰め込まれている。
※週刊朝日 2014年4月25日号