『ライヴ・アット・ザ・セラー・ドア』ニール・ヤング
『ライヴ・アット・ザ・セラー・ドア』ニール・ヤング
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 オリジナル・アルバムの制作やコンサート・ツアーとは別に、ファーム・エイド、ブリッジ・スクール・ベネフィット、リンクヴォルト、PONOなど、さまざまな分野のプロジェクトに精力的かつ意欲的に取り組んできたニール・ヤング。それらと並行して、ここ数年、彼がきわめて熱心に展開しているプロジェクトに、アーカイヴ・シリーズがある。過去50年間、スタジオやステージで残されてきた膨大な音源を、ひどい出来のものも含めて、自分自身の手で、作品化していく。簡単にいえば、そういったプロジェクトだ。その仕事を通じてニールが示してきたリアルな音質への強いこだわりは、今秋いよいよ現実のものとなるPONOへの想いともつながっている。

 ニール・ヤングが公式な形で発表してきた作品を録音時期順に紹介していくというコンセプトで、ほぼ1年にわたってこのコラムを書きつづけてきたわけだが、その間にも、アーカイヴ・シリーズから1枚のアルバムが届けられていた。2013年リリースの『ライヴ・アット・ザ・セラー・ドア』だ。同シリーズでの作品番号は、2.5。ちなみに、番号と発売順は一致していなくて、このあたりのこだわりもニールならでは。

 セラー・ドア(1965~81)はワシントンD.C.のクラブで、キャパは200人前後だったという。マイルス・デイヴィスやリッチー・ヘヴンスもライヴ盤を残していて、東海岸の聖地の一つといっていいだろう。

 記録によれば、1970年の11月30日から12月2日にかけて、ニールはそこで1日2回、計6回のライヴを聞かせている。時期的には、CSNYツアー終了と『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の発表から数カ月後。『ライヴ・アット・ザ・セラー・ドア』はそこで録音された音源をまとめたもので、バッファロー・スプリングフィールド時代もカヴァーしたベスト選曲的な内容となっている。さらには、《オールド・マン》などこの時点では未発表の曲も歌われていて、名盤『ハーヴェスト』に向かう彼をとらえた貴重なオーディオ・ドキュメタンリーというとらえ方もできるだろう。9フィートのスタインウェイをポロポロ弾きながら「まじめにピアノ弾きはじめたのは、ええと、1年前かな」などと語る愉快なMCも収められている。[次回4/23(水)更新予定]

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