
本稿執筆時点での最近作『サイケデリック・ピル』の発表は、2012年秋。ニール・ヤングとクレイジー・ホースの全員が顔を揃えて取り組んだオリジナル・フル・アルバムとしては、『ブロークン・アロウ』以来じつに16年ぶりということになる作品である。
『アメリカーナ』の回で書いたとおり、『サイケデリック・ピル』は、ニール本人にとっては、はじめて素面ですべての曲を書き上げなければいけないアルバムでもあった。しかも、あらゆる面で彼の創作活動を支えたデイヴィッド・ブリッグスはもういない。加えてもちろん、年齢の問題もあった。12年を迎えた時点で、ニールは66歳、ビリー・タルボットとラルフ・モリーナは67歳、フランク・サンペドロは62歳。みんな、もう若くはない。いくつか不安要素があったわけだが、届けられたのは約90分収録、CD2枚組の大作だった(ブルーレイ・オーディオ版、変則構成のアナログ3枚組も発売された)。名義は、ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホースとなっている。
オープニングは、27分超の《ドリフティン・バック》。アコースティック・ギターだけで静かにスタートし、一瞬の静寂のあと、エレクトリック・バンドへと移っていくこの曲では、『ウェイジング・ヘヴィ・ピース』として出版されることになる本を書いていたこと、今秋ついに正式発表される究極の音響システムPONOともつながるMP3音源への痛烈な批判も歌い込まれている。物語性豊かな《ラマダ・イン》と、過去への後悔も感じられる《ウォーク・ライク・ア・ジャイアント》は、ともに16分超。こういった長尺にもかかわらず、まったくあきさせることのない曲からは、「ウィズ」というクレジットでさり気なく示したとおり、ジャム・セッションを繰り返しながらクレイジー・ホースの面々とつくり上げたアルバムなのだという想いが伝わってくる。
故郷での思い出をテーマにした《ボーン・イン・オンタリオ》、ディランの名曲《ライク・ア・ローリング・ストーン》やグレイトフル・デッドといった固有名詞が登場する《トゥイステッド・ロード》なども、どこかで著作と重なるもの。『サイケデリック・ピル』は、それ自体がニール・ヤング66年の総括と、2011年から12年にかけてのドキュメンタリーでもあったのだ。[次回4/16(水)更新予定]