2012年、ある大企業が日本でいう会社更生法の適用を申請した。イーストマン・コダック。世界最大の写真感光材メーカーである。
 そりゃ、そうでしょう。デジカメがこれだけ普及したらフィルムや印画紙のメーカーなんかひとたまりもないべ、と私たちは考える。だが、ことはそう単純でもないらしいのである。楡周平『「いいね!」が社会を破壊する』はそのコダック社に15年在職し、現在は作家として活躍する著者による警世の書。
 コダック社が窮地に立たされたのは〈あまりにも確立されたビジネスモデル〉ゆえだったと著者はいう。1ロールのフィルムが売れるごとにフィルム代・現像料・プリント料と3段階の収益がついてくるシステムは同社を優良企業にしたが、2000年頃から市場に大変革が起こる。カメラ付き携帯電話の普及とブログ人口の増加である。これはデジカメの出現以上にインパクトのある出来事で、以来、人々は写真を撮りまくるも、三つの収益部門はすべて不要。街のカメラ店も見事に消えた。
 新しい業態にさっさと移行すればよかったって? いやいや。<私がここで言いたいのは、企業自体の存続ではありません。そこで働く人たち、つまり個々人の雇用など、イノベーションの波に襲われたら最後、簡単に崩壊してしまう時代になったのだということなのです>。
 同様の現象は、ネット書店に席巻されて中小書店が消えた出版業界でも、ネット配信でCDショップが消えた音楽業界でも観察できる。新聞もいずれ同じ道をたどるだろうし、コンビニも同じ運命にある……。
 注意すべきは、これが単なるノスタルジー系の「昔はよかった」という話ではないことだろう。<少し前の時代まで、イノベーションは多くの雇用を産み、社会を豊かにするものを意味しましたが、今は全く違います>。雇用は崩壊し、知的労働にも対価を払わず<待ち受けているのは勝者なき世界>。技術革新の結果がコレかと思うとゾッとする。

週刊朝日 2014年3月21日号

[AERA最新号はこちら]