カントの『純粋理性批判』は最も難しい哲学書と言われる。人間の理性を考察した名著だが、カント研究者である著者は独自の批判を試みる。「女は理性を持たないのではないか」との疑問を出発点に、女性特有のものの言い方や考え方をあれこれ引用しつつ、男女の違いを省察していく。
 女は非論理的な三段論法で夫の浮気をしきりに妄想したり、善や真理よりも目先の幸福をつかもうとしたり、まったく理性的でないと著者は言う。そこでカントの理性を「男性理性」と仮定し、別に「女性理性」が存在するかどうかを検討していく。やがて主題が「そもそも『哲学』とは何であるか」という問いへと移っていくのが興味深い。
 原著とほぼ同じ章立てで書かれる本書は読者に知的負担を強いる部分がある。著者も最終盤でカントには「もう、ついていけない!」と吐露するが、一緒に苦闘するつもりで読み進めば、思わぬ発見がある。
 女の行動を茶化した部分には、女である私はうなずき通しだったが、他の読者はどうか聞いてみたい。

週刊朝日 2014年3月14日号