<「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ>
 沖縄・石垣島に移住した著者と息子の、瑞々しい驚きや発見が歌われた第五歌集。震災を挟み足かけ9年、341首が収録されている。
 本書は二部構成であり、まず震災から現在までの歌が登場する。仙台市の自宅から西へ行く途中でもらった「ゆでたまご」を忘れないと思い、「島に来て」戸惑うなかで、いつの間にか子は「オレがマリオ」と奔放に駆けまわっている。やがて食卓には島の果物や魚が並び、歌には島の言葉が並ぶようになる。春は海にモズクを探し、夏はスコールがストローのようにざくざく落ちてくる、といった島の四季が生き生きと描かれ、第二部の震災以前の日常との対比が鮮やかだ。
「私は何かを失ったのではない、大切な場所を一つ増やしたのだ」と著者は言う。失ったことへの怒りや悲しみもあるだろう。しかし、それ以上に、大切なものに対する温かな眼差しを感じる。愛に溢れた一冊である。

週刊朝日 2014年2月28日号