私はまだ、この日常に慣れきっていない──。東日本大震災から3年、時代はどこに突入するのか。未来を生き抜く「心の力」が今こそ必要ではないか。ミリオンセラー『悩む力』と長編小説『心』の著者が、夏目漱石『こころ』とトーマス・マンの『魔の山』を題材に心の実質を太くする生き方を考え抜く。
両書の主人公はいずれも平凡、凡庸。ただし、「偉大なる平凡」なのである。凡庸が偉大なのは、幅のある選択肢の中から最適なものを選択でき、人の意見をたくさん聞きながらも「染まらない、洗脳されない」から。そのように、「自分自身がいいと思う道を進んで、それがダメだったらいくらでも図太く方向転換できる」ことこそ、究極の心の在り方ではないかと著者は投げかける。
代替案がないから生きづらくなる。いまの生き方が苦しいならリセットすればいい。心は自分なりの自己理解と密接に結びつく。だから、「ある」ともいえない未来をあれこれと予測するより、確実に「ある」過去を力に変えていく。著者の言葉から、「心の力」の正体をつかんで欲しい。
※週刊朝日 2014年2月14日号