虫に関する著書で知られるフランス文学者が、日々の思索を綴った随想集。東京・上野の生活、虫の世界、便利になる風潮への憂い、原発への不信感など幅広い内容を収める。
 著者は「昆虫の標本を作っている時が一番楽しく、上手く出来あがった時は精神が浄化されるような気さえする」という。標本室には整理済みのものと未整理の標本が30トン。さらには文献が10トン。そこで住んでいた家を壊して小さな博物館をつくったのだが、経営は苦しい。会費振り込みのお願いをと、会員の住所氏名の宛名書きをしていると、会費をいただくことに感謝の念が湧いてきたという。あるいはテレビ局が、ファーブルが研究したことで知られる糞虫の仲間を撮影するので、共にコルシカ島に向かい、ボタボタ落ちている牛糞を、黒いビニール袋に片っ端から投げ入れたときのこと。ホテルの便器の横で袋をあけ、大漁に笑いが止まらなかったとか。
「ちょんちょんという、この軽薄さはいったい何事であるか」と大勢の人間がパソコンに毒されているように思えることを皮肉るなど世の中への風刺も健在だ。

週刊朝日 2014年2月7日号

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