超自然的な物語創作に長けた作家が、江戸時代の奇才、平賀源内を主人公に、空想上の産物である恐龍と出くわす長編小説を著した。構想から完結まで20年がかりの大作だ。
 源内は、エレキテルの製作で知られる才人である。鉱山開発、絵画、俳句、小説、浄瑠璃などに手を染めるかたわら興行師にもなり、物産や本草学に通じる。だが、その博識に見合う偉業は少ない。秩父の金山開発に失敗し、44歳で失意のなか大坂に留まっていたが、ある寺で「龍の掌」を見せられ、ニルヤカナヤと呼ばれる黄金の島と、そこに住む恐龍に興味を抱く。和蘭陀(オランダ)国と盗賊集団火鼠も琉球絵文字の謎を解こうと暗躍。舞台は長崎や江戸にも移り、豊臣家の末裔がニルヤカナヤに落ちのびるという驚きの仮説に導かれる。
 愛嬌があり、身分の隔てなく交際する源内だが、ひとつのことにじっくりと腰を据えることができない性分だった。もてあました才が想像上の動物を社会に引きずり出したのか。田沼意次、円山応挙、杉田玄白、上田秋成らも登場。全五巻で、第3巻以降は今後毎月末に1巻ずつ刊行される。

週刊朝日 2013年12月6日号

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