インタビューは私にとってラブストーリーだ。それは戦いであり、性行為である。──オリアナ・ファラーチの実に刺激的な言葉を巻頭に掲げた長篇小説『ハードトーク』は、インタビュアーを天職と定めた男の栄光と挫折のキャリアを描きながら展開していく。
 あるテレビのインタビューをきっかけに辞職や辞任に追いこまれた政治家を、私たちは何人も知っている。マスコミにすれば、それは大きな手柄となり、インタビュアーは評価される。とはいえ、予定外の言質をとられた側はたまらない。次の選挙で落選して政治生命が絶たれかねないケースもある。
 この作品に登場する政治家も、家族づきあいもする男から受けたインタビューをきっかけに大臣を辞任。選挙にも落選し、妻を病気で失う。一方、男は「ハードトーク」なる番組を立ち上げてインタビュアーの仕事に邁進するうちに娘を亡くし、インタビューした相手とのトラブルをいくつも経験。ついには番組を去る。
 TBSの「ニュースの森」や「NEWS23 クロス」でキャスターを務めた松原耕二が作者なだけに、舞台となるテレビの報道現場の生々しさは、よく練られた構成とともに作品の大きな魅力となっている。
 しかし、それらにも増して興味をひくのは、ここまで男がインタビューに惹きつけられる理由だろう。ファラーチの言説よろしく相手とからみあい、結局、インタビュアーは何を求めるのか。言いかえれば、理想的なインタビューとはどんなものなのか。百戦錬磨のインタビュアーである男も、この問いを作中で考えつづける。その思索に読者も巻きこまれ、人がなぜ話すのかといった根元的な疑問や、自分の中にある〈無意識の扉〉について考えてしまう。
 男は終盤、自身の問いに決着をつけ、二十年ぶりに問題の政治家へのインタビューに臨む。その見事な「戦い」と「性行為」に、読者はきっと夢中になるだろう。

週刊朝日 2013年11月22日号

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