――写真を始めたころのことを聞かせてください。
ぼくが写真を始めた1979年ごろは、ポリスが本当に成功の道を進み始めたところで、毎日大勢のカメラマンに囲まれていた。撮られるばかりの生活なら、ぼくも写真を撮ってやれ、と思ったのがきっかけ。やっとギャラが入るようになって、ニューヨークで写真家と一緒にB&H(ニューヨークのカメラ安売り店)に行ってニコンFEを買った。最初に買ったレンズは24ミリと20ミリだったんだが、撮り始めて、ワイドレンズはすごく像がゆがむことがわかった。それで50ミリを買った。最高の、そして偉大なレンズだ。50ミリで撮影するようになってから撮影アングルや光のトーン、露出なんかを学べるようになった。ゆがみがまったくなくて、自分の目と同じように写るから、ごまかしがきかない。
デジタルで撮ったものは情報にすぎない。フィルムカメラこそは魔法なんだ。これは化学(ケミストリー)だ。フィルムカメラっていうのは、光があって、銀があって、そして自然の作用……つまり神の業なんだ! 被写体の肌触り、豊かさが写る、それが魔法なんだ。本当に魂(ソウル)がこもっているのはライカだし、フィルムなんだ。
――テクニックよりも、感性が重要だとお考えですか。
ぼくはテクニックについて人と会話を交わす程度には知識はあるけれど、そこへあまり巻き込まれたくないんだ。音楽を作るとき、ぼくはギターをつかって曲を作ることに没頭し、まわりにいるエンジニアたちはぼくの指示どおりにミキシングとか音のバランスなんかのテクニカルに集中する。彼らはミキシングの技術は持っていても、芸術的な感性はないんだよ。写真のプリントも、ある部分を強調して、それ以外は外して、その作品に力を与える。これが感性だ。曲のオーケストレーションと同じなんだ。作品の構造やシークエンスを作り上げること、それがぼくが評価されている部分なんだ。
――作品は常にモノクロですか?
モノクロで撮影するのが好きだ。力強さ、真実、「物事の本質」があると感じるんだ。
――影響を受けた写真家がいたら教えてください。
絶対的に、圧倒的にいちばん深く尊敬し、影響を受けたのはロバート・フランクだ。それからラルフ・ギブソン。彼はギターを演奏するのも好きで、ぼくらはギターや写真のことを何年も話し合ってきた。
――83年のポリスの「シンクロニシティ」のジャケットに写真家のデュエイン・マイケルズを起用したのはあなたのアイデアですか?
もちろん、デュエインを起用したのはぼくだ。ポリスの最後の数年間、ほかの2人(スティングとスチュアート・コープランド)は、ぼくのビジュアルセンスに気づいて、バンドの宣伝美術をまかせてくれたんだ。アルバムタイトルが「シンクロニシティ」つまり別々のものが同調する、というテーマだったから、それぞれがほかの2人は何をしているか知らされずに3人別々に撮影して、最後にそれを全部合わせてあのジャケットができたんだ。
――あなたはとても革新的なギタリストのひとりですが、何か写真でも新しいことをしてみようという思いはありますか。
ほとんどのアーティストにとって、何かを創造するときというのは、そのことによって自分自身に刺激を与えたいのだと思う。ぼくのソロアルバムは15枚あり、しかもそれらはロックじゃない。ジャズの要素がたくさん取り入れてあって、非常に洗練されていて、音楽的な調和にこだわりがある。それはぼく自身を忠実に表現している。写真はそういうぼく自身の音楽に対応して存在している。ポリスの音楽はもっとポップで、そうしたものとは違うんだ。ぼくにとって写真というのは音楽と相互作用する真剣なアートであり、重く、暗く、ぼくが自分自身の音楽を作るときの姿勢に近い。写真の作品づくりというのは、行為というよりはぼくにとって思想なんだ。音楽と写真、両方が合わさってぼくという人間をつくっているといえるから。
※このインタビューは「アサヒカメラ 2009年8月号」に掲載されたものです