人間が集団で暮らす「まち」はいかに治められるべきか。法や政治哲学などの視点から、原子力ムラや騒音おばさんといった具体例を交え、為政者や大企業に敵対するだけの「正義」もどきを小気味良く斬っていく。政府系金融機関で、まちづくりの実務に携わってきた著者ならではの説得力が全編にあふれる。
 コミュニティを絶対的にいいものとする主張への批判も鋭い。人々の「緊密な関係(=仲良し)」にすべての解決を委ねる危うさを説き、見知らぬ者同士をつなげる方策を探る。
 「まち」をつくるための政治を論じた後半では、米国のタウンミーティングを例に挙げ、関係者全員が一堂に会する「直接制デモクラシー」に期待をかける。小規模の住民を単位とした意思決定に、真の「自治」への希望を見いだすのだ。分譲マンションが、格好の舞台になる。そこで人々は、自分たちの選択に伴うリスクを引き受ける「気構え」を持ち「市民」となる。実現には私たちの意識変革が必須であろう。観念論に終わらず、めざすべき形を示したことに意義を感じる。

週刊朝日 2013年11月1日号