全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年3月13日号には職人醤油 代表の高橋万太郎さんが登場した。
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ずらりと並んだ100ミリリットルサイズの小瓶。中身はどれも日本の食卓に欠かせない万能調味料、醤油(しょうゆ)だ。色、味、香りは千差万別で、その種類は100を超える。
全国各地の蔵元を回り、えりすぐりの醤油だけを集めて販売する。地域に根付いたさまざまな味を多くの人に楽しんでもらい、気に入ったら自分で買いに行ってもらいたい──。そんな思いから容器をお試しサイズに統一した。
いい蔵元があると聞くと、迷わず現地に向かう。その行動力は、かつて精密機器メーカーの営業職だった時代に身につけた。3年間の会社員生活を経て、独立を目指して退職。興味があることを思いつくままリストアップしていった結果、最終的にたどり着いたのが、伝統産業の醤油だった。
2007年に「職人醤油」を設立してから、これまでに訪れた蔵元は400軒以上。駆け出しの頃は怒鳴られたり、追い返されたりしたことも一度や二度ではない。それでも一軒ずつ回って丁寧に会話を重ねるうちに、「いいものを作っているのに売れない」という悩みを抱えた造り手が多いことに気がついた。
「地域で愛される醤油には個性がある。その個性は造り手の個性でもある。そんなことを知ってもらえる仕組み作りをするのが自分の立ち位置だと思うようになりました」
全国の造り手をつなぐ橋渡し役も務める。これまで結びつきがなかった造り手たちを集めて一緒にイベントを開いたり、展示会に出品したりして、販売に力を入れる。
「面白いもので、いろいろな種類を並べて売ると、造り手は自分以外の造り手の商品の説明も始めたりします。お互いがお互いの良さを認め、発信することで結局全体の売り上げがよくなるんです」
近年は海外への売り込みにも尽力する。昨年、外国のバイヤーが多く集まるアジア最大級の食品・飲料専門展示会「FOODEX JAPAN 2022」に、全国の25社を集めて出品。今後は海外でも醤油の真価を知ってもらえるようなブランディングをするべく、計画を進めている。
「造り手に共通しているのは、よりよいものづくりをしたいという思いです。そんな人たちをつなぎ、情報交換を活発にすることで、醤油の世界を進化させたい」
(ライター・浴野朝香)
※AERA 2023年3月13日号