Album Review:レキシ“もはや歴史ではない”ニューAL、歴史の先に新たなロマンあり
Album Review:レキシ“もはや歴史ではない”ニューAL、歴史の先に新たなロマンあり

 レキシが今までリリースしたアルバムタイトルは、『レキシ』『レキツ』『レキミ』、そして『レシキ』。今回5作目にして『Vキシ』というタイトルは秀逸である。“もはや歴史でもない”というキャッチフレーズは、つっこみを先回りされたような気分だが、中身はというと、日本史ワード全開。今作では西日本に幕府があった飛鳥・平安・室町時代が主なテーマとしてピックアップされており、「一休さんに相談だ」「古今to新古今」「SHIKIBU feat.阿波の踊り子」などがまさにそれに沿ったものだろう。アーティスト写真もレキシが一休さんに扮している。

 今までのレキシ作品同様、今作でも豪華なゲストが参加している。ネコカミノカマタリ=キュウソネコカミ、ハッピー八兵衛=後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、阿波の踊り子=チャットモンチー、森の石松さん=松たか子。さらにおなじみのシャカッチ=ハナレグミ、足軽先生=いとうせいこうも参加しているが、レキシネームの命名ももはや歴史でもなくなってきている気がするのは私だけだろうか。

 それにしても、言葉遊びが本当に巧みである。「刀狩りは突然に」では、刀の鞘と男女の元サヤがかけられているし、「旧石器ベイベ」の<キミの旧石器 キミに急接近>など茶目っ気たっぷりの遊びを全力でやっているところが実に心をくすぐられる。また、「KMTR645」や「寺子屋ファンク」のファンクやバンドのサウンドに乗せて繰り返し口ずさんでしまうキャッチ―なフレーズが中毒性をもつ。もう一つレキシ作品の魅力の一つと言えるのは、遊び心全開の歌詞ながら、メロディアスで耳に心地よいサウンドをばっちり当てはめてくるところだ。「最後の将軍feat.森の石松さん」は、大政奉還と徳川家15代将軍徳川家康との関係を恋になぞらえており、松たか子が情感たっぷりに歌い上げるものだから、思わず切なくなってホロっときそうになるが<もう幕府なんて 終わらせていいのよ>という歌詞で「あれ?何に感情移入してるんだっけ?」と我に返ってしまう。不思議な気持ちに揺れながら、「あぁ、これがレキシワールドだよな」なんてくすっと笑えてしまう。

 本作は、もはや歴史ではない。「古今to新古今」では和歌がまるでロックンロールのように思えるし、「旧石器ベイベfeat.足軽先生」では旧石器時代の人々が渋谷や原宿で生活する若者かのように描かれている。「刀狩りは突然に」なんていきなり彼女を取られた男の悲しさそのものだ。本当かどうか、なんてそんなことは分からないが、そんなことは置いておこう。移ろいゆく時代があろうと、ファッションを気にする若者がいて、男女の間には恋も生まれ、恋に破れて嘆くこともある。本作は、アイデアこそ歴史に沿っているが、レキシが描いた現代のソウル、あるいは新たなロマンかもしれない。

Text:神人 未稀

◎リリース情報 5th アルバム『Vキシ』
NOW ON SALE
<完全生産限定盤(CD+DVD)> VIZL-996 3,800円(plus tax)
・手書きジャケット付き
<CD+DVD> VIZL-997 3,800円(tax out)
<通常盤> VICL-64586 3,000円(tax out)
※CD収録曲:10曲収録