改憲に意欲満々かと思ったら、参院選を前にトーンダウンしたようにも見える安倍晋三首相。もっとも改憲は自民党の悲願。選挙に勝てば議論はすぐに復活するだろう。
 で、松竹伸幸『憲法九条の軍事戦略』。護憲派のあなたにも改憲派のあなたにも発想の転換を促す、これはなかなか魅力的な一冊だ。
 9条を肯定する人が過半数を占める一方、自衛隊を肯定する人も8割を超す日本。一見矛盾するようだが、〈軍事力に頼るという気持ちは、平和を願う気持ちと矛盾しない〉と著者はいう。〈衝突を回避するための軍事力の使用のあり方というものが存在するのである〉とね。
 たとえば専守防衛。相手から武力攻撃を受けたとき(時点)、自衛のための最小限度の範囲(態様)と、最小限度の武器(装備)でなら防衛力を行使できるという考え方のことである。これこそ9条の制約といわれるが、じつは国際法が規定する自衛もほぼ同じ。つまり〈本来ならどの国も守るべきことを、九条があるが故に、日本が率先して守っているという程度〉のことにすぎない。
 あるいは集団的自衛権。たしかにこれは国際法が認め、9条がある日本では認められていない権利である。だが歴史上、集団的自衛権が発動された例は旧ソ連のアフガン侵攻やベトナム戦争など数えるほどしかなく、その実態は集団的自衛権の範囲を超える超軍事大国の侵略戦争に近かった。〈そんな権利を行使できるようになることが、日本の軍事戦略上、はたして必要なのだろうか〉
 と、こんな調子で歴史や国際法をにらみつつ、著者は主張するのである。むしろこれまで制約と考えられてきた9条こそが、国際平和の上では優位性につながるのだと。
 事実上、日米安保に頼るという軍事戦略しかなかった日本に、9条の新しい使用法を説いた本。ある人には邪魔者扱いされ、ある人には神と崇められてきた9条は、意外とフツーに使えるヤツだったのだ。あっさりクビにするのはもったいない。

週刊朝日 2013年7月12日号