いやはや、ここまでひどかったとは!
円谷英明『ウルトラマンが泣いている』は、円谷英二の孫で、円谷プロ元社長(六代目)による円谷プロの内幕暴露本である。
いま40代、50代で、ウルトラ・シリーズを見たことがない人は、ほとんどいないのではないだろうか。誰もが心のどこかに「ウルトラ」を刷り込まれている。もしかすると、現代日本人にとっては、わらべ歌よりも、昔話よりも、広く共有されたカルチャーといっていいかもしれない。
この本が売れているのは、ウルトラマンへのノスタルジーだろうが、残念ながらそういう本ではない。なにしろ円谷プロの内情はめちゃくちゃだった。経営危機やお家騒動についての情報はたびたび流れていたけれども、これが実態だったのか。
驚いたことに、そもそも円谷英二の時代から特撮だけでは利益が出ていなかった。「特撮の神様」といわれ、世界的評価も高いとされているのだが、制作コストが収入をはるかに上回る。赤字を埋めるために玩具などでのキャラクタービジネスに力を入れる。すると、玩具メーカーの意向を受けた番組作りになってしまう。ヒーローの数を増やしたり、色を派手にしたり。ほとんど玩具の宣伝番組と化す。
経営とかガバナンスという概念が存在しない。名声にあぐらをかき、会社のカネと自分のカネの区別もつかず、むだづかいをする経営者たち。ダメな会社の典型例を見ているようだ。中国やアジアマーケットでの失敗もよくあるパターン。
貧すれば鈍する。ウルトラ・シリーズの世界観はあいまいになり、対象年齢はどんどん下がっていく。オタクにも見離される。
そういえばウルトラ・シリーズって、危なくなるとウルトラマンが外からやってきて助けてくれるというのが基本パターンだった。もしかすると、この思考回路にそもそもの問題が?
週刊朝日 2013年7月12日号

