「まじめに研究して、『パンツ』ということばをどうどうと言いたい」。素朴な願いで約20年前に発足した「関西性欲研究会」。怪しげな名前だが、大学教授などで構成された真面目な研究者の集まりである。同会のメンバーが執筆した日本、中国、韓国の性にまつわる論文やコラム、対談をまとめたのが本書だ。
 設立時の願いはとっくに果たされ、もはや研究対象はパンツどころではない。江戸時代の日本人が考える理想のペニスの形状や、中国の女装の美少年「相公(シャンコン)」、韓国の整形事情と儒教精神の関係性を論じるメンバーがいる一方で、日本の包茎手術の背景にある国粋主義に関心を持つ人も。刺激的なタイトルが多いがエロを真正面から論じているからか、不思議と下品さはない。
 全編に通底するのは、どうでも良いことにこだわり続ける好奇心。対談では対談相手に「たいていの研究者にとっては、どっちでもいいことだと思いますが」と身も蓋もないことまで言われてしまうが、決してめげない。地道なエロ研究が、東アジア近現代史に新たな1ページを加えた。

週刊朝日 2013年7月5日号