神奈川県警ノンキャリ刑事が定年を迎えるまでの四十年間に取り扱った事件から、バブル時代の「竹やぶ二億円置き去り」事件など12件の捜査実態を再現していく。その目線は、タイトルの「結界」、つまり、犯人と被害者、警察官と人間という境目に置かれている。叩き上げ警部補は1951年熊本県生まれで、高校卒業後上京し、メーカーの営業マンのあと警察官を選ぶ。捜査畑一筋。いつのまにか一度見た顔は忘れないという刑事の習性が身についていた。
川崎での大手メーカー恐喝事件では、バンかけ(不審者に職務質問すること)ではなく逆に声をかけられた。逆バン、だという。しかし、これによってこの男が犯人だと確信する。「逆バンの島田」と語り継がれていく。厚木でのコンクリート生き埋め事故。工事中だった自衛隊の体育館の天井からコンクリートが大量に落下、何十人もの作業員がのみ込まれた。違法性の立証が難しい業務上過失事件。倒壊のメカニズムを知るため10カ月の勉強に励む。
被害者とその家族、事件を追う刑事の捜査を描くタッチは繊細だ。
週刊朝日 2013年6月28日号