2001年6月8日、大阪教育大学付属池田小学校で、児童8人が死亡し、児童13人、教諭2人が重軽傷を負う痛ましい事件が起きた。逮捕された宅間守は当時37歳。03年8月に大阪地裁で死刑判決が出、弁護団は控訴するも宅間自身が控訴を取り下げたために死刑が確定。04年9月、異例の早さで死刑が執行された。
 岡江晃『宅間守 精神鑑定書』はその宅間守の鑑定医による本。タイトル通り精神鑑定書がほとんどそのままの形で収められている。先週の本欄で取り上げた堀川惠子『永山則夫 封印された鑑定記録』が事件の核心に迫る驚きの内容だったので、本書にも期待したのだが……。
 宅間守は1963年、兵庫県で生まれた。小中学校時代から粗暴な言動が目だつ。同性の友人はおらず、女性に対する態度も逸脱的。公務員だったこともあるが職を転々とし、犯罪歴も多数。精神科への断続的な通院歴と4度の入院歴がある。4度の結婚離婚をし(最初の2人の妻は十数歳年上)、犯行の直前には3度目の元妻への復讐を考えていた。
 同情しにくい人生ではある。鑑定書が出した結論は人間的な感情に乏しい「情性欠如」。ただ、あまりに常軌を逸した行動が多すぎて逆に気になる。鑑定書もまた〈いずれにも分類できない特異な心理的発達障害があった〉といい、〈現在の精神医学の疾患概念には当てはめることのできないほど、バラバラな症状と非定型的な症状である〉と述べる。
〈僕もパイロットになりたくなってしまった〉。それでちょっと勉強し〈国立の中学校に行きたいと思った〉。一貫して自暴自棄な三十数年間で唯一健全性がうかがえる、宅間の高校時代の反省文の一部である。〈自らもかつて入学を希望したがかなわなかった池田小〉という判決文に呼応するのも唯一ここだけ。
 鑑定書という本の性格上、本書から宅間守の全貌を知ることはできない。まとまった形のノンフィクションを誰か書いてほしい。あれだけの事件を、だって風化させられる?

週刊朝日 2013年6月21日号