ひとくちに“卒業”といっても、学校を卒業することだけではない。歌人であり、小説家でもある著者は、何気ない日常の瞬間を鮮やかに切り取ることにおいて、秀でた感性を持っている。本書は、人生の中で幾度も繰り返される卒業模様を丹念に掬い上げ、その心の襞や、新たな一歩を踏み出す姿を丁寧に描いた短編集だ。
アルバイトを“卒業”する男性に別れ難い気持ちを抱く女性、吹奏楽部の一年後輩の男子に思いを告げられないまま卒業する女子中学生、女性アイドルグループのメンバーの“卒業”に直面し、心が揺れる女子高生らが各話の主人公。彼女たちが切なさ、不安、かすかな希望、愛おしい気持ちなどを率直な言葉で語る。読み手も自然と、そこに自分も経たであろう“卒業”を重ねる。
各話の冒頭には短歌が添えられており、31文字に卒業に対する心情が凝縮されている。一話を読み終えた後で再びその短歌を読み返すと、初見とは違った輝きを放っている。
「目の前の世界は鮮やかに変わる わずかに足を踏み出したなら」
週刊朝日 2013年5月24日号
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