奇想天外な作風で知られるエンタメ作家の日常を綴った最新エッセイ集。
 英語の苦手な著者は、好きな英単語をネイティブには理解のできない感覚で楽しんでいるという。そのひとつがnatural-bornだ。単語の後半部分、「ぼーん」と伸ばすところの響きそのものを楽しむ。「生得の」という意味だが、予備校時代にはこんな話を聞いて心乱された。骨好きの若者がいて、骨(ボーン)の研究ができる東大を目指して八浪したが、その間も独りで黙々と研究を続けたので、新入生になると論文を次々に発表できた──。自身に純粋にやりたいことがないと気づいた万城目は、もの書きの先天的な才能がないならと努力の20代を過ごす。そして30代で先天も後天も道の険しさに違いはないと知ったと語る。
 ひょうたんに魅せられ、栽培に入れこむ日々。小説を書くはずが、気づくと戦国武将でサッカーの日本代表チームを編成してしまっていた夜(ボランチに武田信玄)。大真面目にすっとぼけるエッセイは愉快なホラ話のよう。東京電力の株主として参加した、震災後の株主総会リポートはほろ苦い。

週刊朝日 2013年4月5日号

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