就職活動をひかえた大学生たちと話をしていると、いつしか「コミュニケーションが苦手で」といった相談を受けることが多い。よく聞けば、自分は企業が求めるコミュニケーション能力を満たしていないのでは、という不安が語られる。
では、企業が求めるコミュニケーション能力とは何なのか。平田オリザの分析によれば、それは、異なる文化や価値観を持った人に対してもきちんと自分の主張を伝えられる能力とともに、従来どおり集団の輪を乱さない能力を併せもつことらしい。しかし、この二つはあきらかに矛盾している。前者は対話を重ねて互いの妥協点を見いだし、後者は言葉を要さずに察しあう能力だ。こんなダブルバインド(二重拘束)状態を求められたら、学生でなくともたまったものではない。
産業構造が大きく変化し、少子化や核家族化、そして経済のグローバル化がこれでもかと進む時代背景もあって、日本社会のコミュニケーション不全は大きな問題となってきた。企業だけでなく学校、家庭にも巣くうこの難題に対して平田は、タイトルにあるように「わかりあえないことから」アプローチしようとする。もう日本人はバラバラなのだと認め、バラバラな人間が、価値観はバラバラなままでどうにかしてうまく関係していくために、まず対話の重要性を説く。その上で、協調性よりも社交性を身につけ、一人の人間がいくつもの役割を演じることで他者とつながっていく可能性について言及する。優れた演劇人である平田がコミュニケーション能力にこだわる理由がここにある。
〈人間は、演じる生き物なのだ〉
ダブルバインドを解きほぐして新たな役割を得るために、平田は「わかりあえないことから」はじまる授業をすでにいくつもの小中学校で実践している。演劇を活用したその内容は、「察しあう」文化に育った者からすれば新しい日本人を育てるプログラムのようで、かなり羨ましい。
週刊朝日 2013年3月8日号