締め切りの日に仕事を放り出す。文章を書く身としては想像するだけで恐ろしいが、羨ましくもある。何をするのかと思いきや、漫画原作者としても有名な著者は携帯電話も持たずに昼間から温泉に出かけてしまう。羨ましさを通り越して、担当編集者が可哀想で堪らない。
向かうのは、浅草の「浅草観音温泉」など東京近郊の昭和の香りがする日帰り温泉施設。わざわざ箱根まで行っても、目指すのは自然に囲まれた有名旅館ではなく、駅近接の大衆温泉「かっぱ天国」。場末感たっぷりの温泉の日常を、設備の仕様から居合わせたおじさんの体つきや会話、風呂上がりのビールまであますところなく描写する。
読了後にふらりと訪れたくなるが、重要なのは「ちゃっかり」の精神。体が温まった頃合いを見計らって、温泉を後にして、軽く飲んで帰る。時間にして2~3時間。決して長居しないので気分転換には最適だ。日頃、だらだら仕事していることを考えれば、「半休取って『ちゃっかり』温泉」はもしかしたら効率的かも。
週刊朝日 2013年2月8日号