いや、たしかにピカソは偉いと思いますよ。
 ピカソっていうだけで何かこう、人々の頭の中にはバシッとイメージが湧きますもの。ゲルニカ思い出す人も、ピエロ思い出す人もいよう。そしてあの絶倫ぽいハゲ頭。うまいんだか、ヘタなんだかよくわからない、とほぼ全世界の人(たぶん)がそう思っている。で、そんなピカソは「ほんとにエライのか?」ということを考えようという本が出た。
 これ読んで思ったのは、アンディ・ウォーホールが、自分の作品を「ファクトリー」の形式で売りまくって稼ぎまくったことがすごく斬新だったと言われてるけど、ピカソも同じようなことやってんじゃん、ということでした。自分の作品を売ることへの貪欲さというか、画商とのかけひき(それもエキセントリックな)なんかはよく似てるではないか(どっちのファンからも「ちがうー!」と怒られそうだが)。ただ、ピカソは女好きでエロなイメージ、ウォーホールは生涯独身のマザコン、というあたりが人に与えるイメージの差になってそうだ。ウォーホールのほうが無機的っぽくて「ファクトリー」のイメージがきわだつ。
 「ピカソはほんとにエライか問題」をいろいろな方面から突きつめながら、ついでに著者の「美術史」「美学」「美」についての思いも語られる。何せ相手が芸術であるので、きっちりした正解などない。答えを探すのもぐるぐると周辺を撫でたり、かすったり、つっこんだり、どっかいったり、ということになっているが、当時の芸術家およびその取り巻きについての豆知識がいっぱいなので楽しく読めます。
 最終章で、著者はエライかエラクないかについて、思いっきり断言してるのだが、ぜんぜん納得がいかない。でもそれで著者の結論が間違ってる、と思うわけでもない。芸術というものはこうもワケのわからんものか、と感心して、だからピカソの絵もさぞや高く売れたんだろうなあと納得できた。

週刊朝日 2012年12月21日号