昭和4、50年代、デパートは「ハレの日」に着飾って家族で出かける特別な場所だった。大食堂でランチを食べ屋上遊園地で遊ぶ。そんな時代に東京のデパートに勤務していた著者による、古きよきデパートの秘密満載のエッセイ集。
 デパートには独特の流儀があり、お辞儀の角度も30、45、90度と細かく分かれている。言葉は必ず「ご」「お」で装飾し、「荷物」は「おてまわり品」、「うち」ではなく「わたくしども」を使う。隠語も様々でトイレや休憩時には符丁を使用。館内BGMもあらかじめ曲が決められていた。全てはお客様に不快な思いをさせないための気遣いで、当時人気の雑誌「暮しの手帖」が何度も取り上げた“お洒落”で贅沢な空間だったのだ。
 そのデパートにかつての賑わいが失われたのは、安売り量販店に客足を奪われたから。迷走しているデパートに必要なのは、かつてのきめの細かい心遣いと流通をスマートに整理すること。そして活気に満ちた非日常的空間を作りあげることに未来の百貨店の在り方があると著者は提言する。

週刊朝日 2012年11月30日号

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