ラジオのトーク番組を活字化した芸談集。人間国宝の師匠は、大正14年生まれの86歳。戦後の上方芸能人や作家たちを紹介しながらの話が深く染み入る。
 田辺聖子の「笑いは愛から来る」という言葉を紹介したのち、「嫌味な人がおかしいことを言うても、そないにドッとはウケない。でも、普段から皆に可愛がられている人が言うと、ようウケる」と続ける。若い人の稽古を見て「ふと、新しい発見がある」という二歳年上の狂言師・茂山千之丞の言葉のあと、「歳を取ってからでも何かに気がつくということはちょいちょいあります」。プロデューサーの沢田隆治は、映画館に通い、映画のカット割りをテレビに生かそうとした。それが「てなもんや三度笠」の大ヒットにつながった。「その努力たるや、並大抵のものやなかった」と米朝。
 「今では師匠が弟子を叱ることも大変になってきたらしい。でも、芸というものはホンマは怖い人がおらんといかんのやと思います」とも語る。米朝のやさしい語りをいかした、生きた大衆芸能史でもある。

週刊朝日 2012年11月2日号