去年の夏、66年ぶりに発掘された、583枚の「東京大空襲」の被害写真。それらは木村伊兵衛率いる軍事宣伝誌「FRONT」の写真家たちが撮影した、大規模な「非戦闘員焼殺作戦」の実態を証す写真群だった。本書によると、当時、東京の小学校の「音感教育」では、B-29のエンジン音と、日本軍の戦闘機のエンジン音を聞き分ける訓練を繰り返していたという。また「防空法」に縛られた市民は、焼夷弾の火雨の中を逃げることも許されず、バケツリレーで無謀な消火を強いられていた。その間、土砂に埋まった防空壕の中で、ハンカチで包んだコッペパンを手に、女の子がひとり息絶えた――昭和十九年十一月二十四日。
 わずか二時間半で、非戦闘員十万人を焼き殺した「東京大空襲」を、アメリカ人の大半が知らないという。戦争を終結に導いた「人道的兵器」の原爆は知っていても。初空襲から「東洋のサル」を焼き殺すべく、米国は「無差別大量殺戮」を「人道的戦術」として選んでいたことも――私を含め、今や日本人の大半は、知らない。

週刊朝日 2012年11月2日号

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