息子は近ごろ、おじいちゃんおばあちゃんの家に顔を出す。そこは私にとっては元舅と元姑の家だ。息子の通学定期にあと160円足せば寄れる近さなので、ふらっと行ってしまう。顔を出すとごちそうしてもらえるのがうれしいらしいし、私も別に止めてはいない。
その家にはパパはいない。パパ(私の元夫)は、今、関西で仕事をしているからだ。いつかパパが住む街を見てみたい、と息子は関西の大学の受験も視野に入れ、このごろ勉強にも力を入れていた。
先日、お腹を空かせた息子はまた祖父母宅に寄った。すると思いがけない人物が部屋の中にいた。出張で東京にやってきたパパだったのだ。あちらの再婚以来、実に6年ぶりとなる再会だった。
「久しぶりだな」
という彼の後ろには、小さな男の子がいた。関西から一緒に連れてきた、息子の腹違いの弟である。祖父母からその存在を聞かされていたとはいえ、顔を合わせるのはそれが初めてだった。小さな弟も突然現れた"お兄さん"に最初は戸惑っていたという。けれど2人でおすもうを取ったら、たちまち仲良くなれたという。
話を聞いて、私はせつなくなった。新しく生まれた息子さんは毎日父親と過ごせている。それなのに私の息子は、6年も会うことがかなわなかった。同じ父親だというのに、どうしてこんなにも過ごす時間が違うのだろう。
その日、息子は我が家に帰って来なかった。パパと息子と異母弟と枕を並べて寝たのだそうだ。もしかしたらあちらのお家で暮らしたほうが息子にとっては幸せなのかもしれない。彼も16歳なのだし、パパと暮らすというのなら手放す覚悟はできていた。
しかし逆に息子はこれで逆に気持ちがスッキリしたらしく、関西の大学を受験する気持がなくなった、首都圏のどこかを受ける、と言う。パパには大学入試が終わるまで会わないことにしたんだよ、と言う息子の目は以前よりずっと落ち着いていた。
そして夏休みは、ろくに勉強もせず、毎日ゴロゴロ。
「関西でパパと暮らしたいとは思わなかったの?」
と聞いてみると、
「俺はここがいいんだよ!」
とまたゴロゴロ。今までの勉学意欲はどこにいったのだろう。パパに会いたいがためだけだったのかしら。どうやらもうしばらくこのおナマケ息子との生活は続きそうだ......。