東郷和彦さん(78、右)。政治学者・元外交官。外務省で欧亜局長、オランダ大使などを歴任。著書に『プーチンVS.
東郷和彦さん(78、右)。政治学者・元外交官。外務省で欧亜局長、オランダ大使などを歴任。著書に『プーチンVS. バイデン ウクライナ戦争の危機』など/廣瀬陽子さん(50、左) 慶應義塾大学総合政策学部教授。専門は国際政治、旧ソ連地域研究。主な著書に『ハイブリッド戦争 ロシアの国家戦略』など(photo 写真映像部・高野楓菜)

 この経験から考えても、米国はプーチン大統領を研究し、正しく理解しているのかと考えてしまいます。何のお土産もなしに戦争を終わらせることなんてできないのです。まともな軍人とまともな外交官なら必死になって研究してるはずだと思うんですけど。

廣瀬:米国は戦争が始まってから、ロシアの現実に配慮し始めた気がします。バイデン大統領の発言の変化からもそう読み取れます。開戦直後、バイデン大統領はプーチン大統領に対して「あなたは権力の座にいるべきではない」と発言し、プーチン大統領は逆上しました。ですが、その後「プーチンを追い落とすつもりはない」と言い出した。プーチン大統領をロシアに残さないと収拾がつかなくなると学習したんでしょう。プーチン大統領がいなくなれば大丈夫という人もいるけれど、そんなことは全くないと思うのですよね。

東郷:僕もそう思います。

廣瀬:ロシア政権の中にはもっと過激な人もいて、むしろバランスを取っているのがプーチン大統領です。国民の8割が彼を支持していることにも配慮すべきです。もし、彼で負けた場合、ロシア国民はもっと過激な人を選ぶ可能性もあるわけです。プーチン大統領が戦後処理もあわせてやるということまでパッケージで考えて現実的な対応をする必要があると思います。

東郷:はい。その点も日本が同盟国として、戦争の長期化は欧州大戦の危険性を高めるという点とあわせ、きちんとバイデン大統領に進言すべきです。G7サミット(主要7カ国首脳会議)の議長国として主催する広島サミットまでがチャンスですね。

廣瀬:そうですね。ただ、日本政府は昨年12月、国家安全保障戦略(NSS)など安保関連3文書を閣議決定しました。防衛費の増額などがあっさりと決まってしまい、不安を覚えました。ウクライナ戦争が促進要因になったことは間違いなく、本来なされるべき議論が看過されなかったか懸念を感じます。

 日本は、これまでの路線を守ってできることをやればいいと思います。復興支援、発電機や断熱素材などの提供、難民の支援など日本の強みと経験を生かした、技術と知恵を含めたトータルな支援を行う方がより実効的な支援ができるのではないでしょうか。

東郷:その通りです。日本がウクライナに武装支援をしても国益は全くありません。ウクライナも日本の立ち位置をよくわかっていて期待もされていません。岸田文雄首相に申し上げたい。今が潮時です。早期停戦は、ウクライナ、ロシア、米国ほか関係国すべてを裨益させます。キーワードは命の尊重です。これこそ、苦しい戦争から立ち直ってきた日本だから提案できる最強のメッセージです。日本外交の出番だと思います。

(構成/編集部・古田真梨子)

AERA 2023年3月13日号より抜粋

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