昨年、クリスマスプレゼントとして息子に電子辞書を買ってあげた。

最近の私立中学は、教室に電子辞書を持ち込むことを許可している。息子のクラスでも少なくとも数人の生徒が授業中に電子辞書を使っているらしい。彼らは入学祝いに電子辞書を買ってもらったという。

機械ものが大好きな息子は、授業時間に小さなキーを押して単語を調べているお友達たちがうらやましくてたまらず、「クリスマスに電子辞書ね!」とリクエストしてきたのだ。

しかし電子辞書は2万円以上する。タッチペンだのネイティブ音声だのと最近のは高機能なのだ。

電子辞書など、言葉の意味を調べられればいいのだから、余計なものをつける必要などない。そう思った私はインターネットで、英語と国語の辞書が入っている程度のシンプルな電子辞書を見つけ、それを注文した。価格は4980円。ハガキ大の普通の電子辞書よりコンパクトで、名刺ケース程度の大きさである。

どうせすぐ壊したりなくしたりするだろうし、これで充分。そう思っていた。息子も「なんか小さいな」と怪訝(けげん)な顔をしていたけれど「持ち歩きやすくていいや」と喜んでくれていたのだけれど。

先日、息子はしょげた顔で下校してきた。

「ママ、あの電子辞書、バカだよ。もっといいの買ってよ」

と言うのだ。

なんでもクラスで難漢字バトルをしていて、お互いの電子辞書の機能を競わせているのだそうだ。すると息子の辞書が一番弱かったという。

「でも"薔薇"も"欝"も出るって喜んでたじゃない」

「それは出るよ。そんなの常識だよ」

「じゃあ、何がダメなの」

「"鸚鵡"だよう」

息子は泣き出しそうな声で、辞書を開き"おうむ"と入力した。確かに漢字に変換されず、画面はしいんとしている。

「みんなのはちゃんと"鸚鵡"と出るのに僕のだけ出ない!ちゃっちぃなこれダッセーって笑われちゃったじゃないか!」

息子に激しく抗議され、しまった安物なのがバレたか、と焦りつつも、

「"鸚鵡"が試験に出るなら買ってやるけど、そんな難しいの出ないでしょ?」

と私は逃げた。息子よ、バトルのために買ってくれと言われても親は買わないぞ。漢字検定の勉強のため、とでも言えば少しは検討してあげたのにぃ。

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