日本のポスト・クラシカル代表格がフラワー・アーティスト&写真家とコラボした、視覚でも楽しめるコンセプチュアル作(Album Review)
日本のポスト・クラシカル代表格がフラワー・アーティスト&写真家とコラボした、視覚でも楽しめるコンセプチュアル作(Album Review)

 日本のポスト・クラシカルを代表するアーティスト、小瀬村晶。ピアニスト、作曲家としてだけでなく、プロデューサーとしても一貫した静謐な世界観を持つ作品を、自身のレーベル<schole>から発表しつづけている。そんな彼が新たに生み出したのが、フラワー・アーティストの篠崎恵美と、写真家の新田君彦とによる3人のコラボレーション。まるで宝石箱のような美しい箱には、CDの他にDVDとブックレットが収められており、聴覚だけでなく視覚でも楽しむことができるのが特徴だ。

 主役となる楽曲は、小瀬村のピアノを軸に展開する。とはいえ、初期の作品のようなロウファイな手法を使うわけでもなく、つぶやくようなピアノが続くわけでもなく、メロディが美しく引き立っている。ピアノ以外では、ストリングス・カルテット、ドラムス、ヴィブラフォン&マリンバといった楽器を楽曲によって配置。基本的には落ちついたアコースティック・サウンドがメインであるが、時にはプログラミングやエフェクトも絶妙に取り入れ、一曲一曲にドラマ性を感じさせてくれるのだ。いずれも、比較的しっかりとコンポーズされたメロディとアレンジになっており、ここ近年の映画や舞台のサウンドトラックにも近い質感を持っている。とくに、「New World」のようにストリングスを交えたドラマティックな楽曲は、前作に当たる映画のサウンドトラック作品『最後の命 EMBERS』の延長線上に位置するといってもいいだろう。

 こういったメランコリックな旋律を聴きながら、花と少女が写し取られた写真集や映像を眺めていると、さらに小瀬村が持つ深い世界観に引きこまれてしまう。目と耳にやわらかな刺激を与えながら、小瀬村は新しいスタイルを提示することに成功した。早くも次の展開が楽しみになるコンセプチュアルな作品である。

Text: 栗本斉

◎リリース情報
『For』
Akira Kosemura
2015/11/25 RELEASE
6,458円(tax incl.)