明仁天皇と皇后美智子さまがデンマークで訪問したのは、第2次世界大戦中のナチス・ドイツ占領下でドイツに対する抵抗運動を続けたレジスタンスグループの墓地。かつてナチスによる処刑場として使用された場所だ。
日本はデンマークと交戦することはなかった。だが、ドイツの同盟国である。
両陛下の訪問について、現地の一部勢力が反感を持っていた。しかし、墓地に献花した両陛下が、その場に集まった元レジスタンスグループの16人に対し、一人ずつ声をかけて、丁寧に話を聞いた。
このとき駐デンマーク大使を務めた折田正樹さんは、かつて筆者の取材にこう語っていた。
「それがきっかけとなり、国内の空気が変わりました。両陛下を温かく迎える空気が国内にじわじわと広がっていった」
皇室の外国訪問に長年同行した記者は、こう振り返る。
「米国の警備・警護は視覚でも威嚇し、力でも威圧する。一方で王室を持つ欧州の守り方はスマートだと感じました。パレードや式典では、訓練されきらびやかな制服の近衛兵が整然と隊列を組み、集まった人との距離を確保する。そして、国民から信頼の厚い王族が盾となって皇室の方々を守る光景には、驚きを禁じ得ませんでした」

そして日本の皇室は、
「皇室の方にそうした意識はないと思いますが、人と触れ合い対話をすることが、結果的にご本人方を守る盾として機能してきた」(元侍従の多賀さん)
要人警護を担当する警備当局を悩ませながらも、日本人が大切にしてきた、「触れ合い」と「対話」によって信頼を築く天皇と皇族方の姿勢が皇室を守ってきた。
安倍元首相の殺害を受けて、宮内庁の西村泰彦長官は14日の会見で、「国民との親和を妨げない形でいかにご身辺のご安全を確保するかは、警察の永遠といってもいい課題」と、苦しい胸の内をのぞかせた。
皇室の安全が最優先ではあるが、国民との心の距離が離れることがないよう願いたい。
(AERA dot.編集部・永井貴子)